私の好きな夏の小径(こみち)
夏の盛りが過ぎる頃に、思い出したように通ってみたくなる小径があります。
「聖ルカ通り」は、新大橋通りの築地3丁目から明石町の聖路加タワーまでの道路の愛称です。
落ち着いた雰囲気のあるその通りに沿って、聖路加国際病院の建物の位置に、緑に包まれた小径が一本通っているのです。
10年ほど前の夏の昼下がりでした。
品の良いご婦人が、小さめのカートを引きながら、小径の途中にあるベンチに腰を下ろしました。
病院のお隣だけに、受診なさった後なのか、病室を訪ねた後なのでしょう。
何かを想う様子で座っていました。
木漏れ日が揺れ、セミの鳴き声がこだまする中で、ご婦人の上半身がゆっくりゆっくり、傾いては戻りました。
微睡み(まどろみ)という言葉がよぎりました。
その瞬間、私にとってそこは特別な小径になりました。
植栽されている木々の種類の多さ
小径には、街中と思えないほどたくさんの種類の木々があります。
ケヤキ
クスノキ
ヤブニッケイ
ムクノキ
シラカシ・・・。
相当な高さに育つ樹木もあります。
風が吹けば、枝や葉が揺れ、光と影が揺らぎます。
草むらの中に、「緑のデザイン賞 建設大臣賞 受賞」とのプレートが設置されていました。
セミの鳴き声も多重奏
幾種類かの鳴き声の中で、他を圧倒しているのがミンミンゼミ。
名前の通り、しっかりミンミンミンミーンと、強く、高く鳴くので直ぐ聞き分けることができます。
そして、ここがセミの声を聞くための絶対な場所である理由は、聖路加国際病院の壁面があることです。
セミの鳴き声を膨らませる、絶妙な音響壁として機能しているようです。
小径の西側
西側に聖路加国際大学のキャンパスがあることも、小径を広く明るく感じさせる要素のひとつです。
平成10年(1998年)に中庭に移築復元されたトイスラー記念館は、昭和8年(1933年)に宣教師館として建てられたもので、区民有形文化財に指定されています。
小径の東側
東側にツインタワーがそびえる、聖路加ガーデンがあります。
その先を更に進みます。
建物の先に、隅田川の流れを見ることができます。
河口が近いため、波が上り下りします。
水面のきらめく様子を見ていると、時に乱れる心も、自ずと穏やかになって行くようです。
この一連の景色こそ、私のとても気になる夏の小径なのです。