鵜澤邸 松が見える街路景観

和風建築の家が入船一丁目にあります。築地魚河岸でマグロの卸営業をされていた虎武商店の経営者、鵜澤さんのご自宅です。先代は入船一丁目町会の元町会長でもありました。

すっとこどっこいの地元も地元、子供の頃、ご自宅に上がり込んで遊んだこともかくれんぼしたことも二度三度ではありません。

塀越しに松が見える景色は下町の素敵な風景です。

昭和21年公開、日本初の総天然色映画であった高峰秀子主演 ”カルメン故郷に帰る” の撮影に使われたと鵜澤さんのご主人から聞きました。すっとこどっこいの母親もこの塀と松の前の道で撮影が行われていたのを記憶していました。

そんな中央区近代建築物調査100選になっている鵜澤邸は今年の2月から解体工事が始まってしまいます。

 鵜澤邸 松が見える街路景観

関東大震災の後、この辺りは火事でほとんどが焼けてしまいました。

鵜澤さんは焼野原となったこの土地に家を建てる時、基礎工事を大々的に行ったそうです。地盤を造るのにかけた期間は2年だったそうです。

建築を受け持ったのは宮大工さんです。

建物の配置は雁行型とよばれる並びです。雁が群れで空を飛ぶときに拡がった列をつくって飛ぶように、直線の並びではなく建物の配置をずらす建て方です。

 鵜澤邸 松が見える街路景観

正面は入母屋破風の玄関です。三角形の空間を作る構造の屋根です。さすが宮大工といった仕事です。

お城や神社によく用いられる形状の高級感あふれる日本建築の屋根です。

建物が完成したのは昭和2年です。基礎工事から4年の月日をかけて出来た家でした。

 鵜澤邸 松が見える街路景観

去年の11月、入船地域に町会が出来て100年を記念したイベントが行われました。イベントの一つが入船各町会の名所をめぐるスタンプラリーです。入船一丁目のスタンプポイントの一つとして鵜澤邸が候補になり、町会員がお願いに行くと引越し最中のお忙しい時にも関わらず、自由に出入りしていいと自宅を開放して頂きました。

今は少なくなった昭和の時代の和風建築です。しかも内部を見られる機会を与えてもらいました。

写真は邸内の組子状の欄間です。とても細かい手の込んだ作業の物ですね。

落ち着いた雰囲気の床の間、引寄せの垂木、長押と欄間のバランスの良さなど十分見させてもらいました。

 鵜澤邸 松が見える街路景観

二階の富士山を模した障子です。

明かりの入り方で様々な富士が見られたのではないでしょうか。

 鵜澤邸 松が見える街路景観

二階北側の芸術的な組子の障子を向いマンションの位置から撮影しました。

雨戸が外してあり、裏側のホテルからの明かりで模様が見え、とても幻想的でした。

 鵜澤邸 松が見える街路景観

諸事情により引越しを決められた後、不要になる調度品等を近所の希望者の方々に差し上げていました。

すっとこどっこいの家も小皿などを頂いたのですが、桐のタンスはいらないか?金庫も持っていってくれる?と言われました。

これは二階の写真ですが一階にはもっと大きな金庫もありました。中身は入ってないよと言われたので丁重にお断りしました。

 

 鵜澤邸 松が見える街路景観

前庭にある石灯籠です。違う形のものも2つあります。

正面側と東側は開放的なガラス窓で庭がよく見えます。

 

 鵜澤邸 松が見える街路景観

これは離れに残されてあった電話室です。

さすがにもう電話機はありません。ドアを開ければ中は空っぽですが、昭和レトロの雰囲気満載です。

スタンプラリーで回っていた人達は皆ビックリして、大撮影会になっていました。

 

すっとこどっこいにとっても何十年も普通に見ていた景色です。新しい建物に変わるのは、時が過ぎて行き、仕方がないことなのでしょうね。

先日所用で家に戻られていた鵜沢さんのご主人が近所を散歩されているのに偶然逢いました。

”この辺も変わっちゃうねぇ。少しでも今の景色を覚えていたくて見て廻っているんだ。”

何にも返事できませんでした。