月島、一人飯。
「腹が、・・減った。」
月島西仲通り。
『もんじゃストリート』の愛称を持つ通りだ。
三角屋根のアーケードが、通りを縁取っている。
いつの間にか、そのアーケードの奥に高層ビルがにょきにょきと伸びていた。
月島界隈には時々立ち寄るが、あえて、もんじゃ店に入ることはなかった。
老舗の洋食店を探したり、創作料理を出してくれる中華料理店の扉を開けた。
タワーマンションの住人が好みそうな、洒落たイタリアンを選ぶこともあった。
築地からも豊洲からも近いという立地の良さ。
月島の町には、俺の味覚を刺激する食事処が随所に隠れている。
おおっ。なんだ。
昼過ぎの通りに、中高生の姿があふれている。
修学旅行か。
もんじゃ焼きって、こんなに人気があったのか。
「ますます、腹が、減ってきた。」
修学旅行生の熱量に引き寄せられた訳ではないが・・。
よし、人生初もんじゃに挑んでみるか。
店選びは、俺の直感に任せよう。
「すみません。一人なんですが、大丈夫ですか。」
「火、付けますね。」とお姉さん。
目の前に広がる、536mm+332mm。
この鉄板の有効焼面が今日の戦場だ。
メニューを見る。
めちゃくちゃ、種類が多い。
『紅の豚』 ポルコ・ロッソ!
『カッコイイとは、こういうことさ。』 森山周一郎の声は渋かったな。
「よし、これにしよう。」
名前に惹かれて注文した。
「あと、ハイボールも。」
鉄板に火が回ってくると、熱さが体に飛んでくる。
キンキンのジョッキで、熱さを防がねばならない。
これは自然な防衛本能というものだ。
分からない時には、素直に教えを乞うに限る。
「すみません、もんじゃ初めてなんですけれど。」
「大丈夫ですよ。作りますから。」
山盛りの豚肉に、これまた山盛りの紅ショウガ。
ポルコ・ロッソとの対面だ。
さすがお姉さん、手際がいい。
キャベツがしなるまで具材を炒めると、ドーナツ状に土手を作り、土手の中にどんぶりに残っただしを満たした。
「いいぞ、いいぞ。」
干上がったダムが、恵みの水で潤されたようだ。
「修学旅行ですかね。通りに生徒さんが沢山いましたよ。」
「そうです。5月6月は中間テストの前後で、修学旅行に行きやすいんだそうですよ。夢の国に行ってから、もんじゃ焼きを食べるという、旅行コースがある様です。」
「宿泊もアンバサダーホテルとか、豪華なホテルに泊まるんですってね。」
「子供さんたちの親は、ほんと大変。」
修学旅行専用の旅館で、夜、枕投げというパターンは、俺たちの世代が最後だったのだろう。
さらさらしただしが、鉄板の上でとろりとしてきた。
これは・・。
さっきまでぐじゃぐじゃだった具が、ドーム型にふっくらとしてきたぞ。
もんじゃ焼きの完成形だ。
「海苔はお好みで。味が薄い時には、そこのソースを使ってください。」
もんじゃ焼きは小さなヘラ「ハガシ」で食べる。
うまく扱えずに、口の中を少し火傷しながら、ハイボールを流し込み消火する。
食べ慣れるまでは厄介なものだ。
食べ進めると、豚肉に熱せられた紅ショウガの色が移って、淡いピンク色になってくる。
これもうまそうだ。
ほッ、ほッ、熱々。
これじゃ、お酒が進むじゃないか。
好みでかけた青のりの香りが、後から口の中に広がった。
もんじゃ焼き店に入店した修学旅行の生徒さん達、グループ初の共同作業で盛り上がるのだろうな。
数種類をシェアして食べると、それだけで嬉しくなる。
手際よく料理をする女子の姿を見ると、内心ドキドキしながら改めて憧れたりするものだ。
いや昨今は、アイドル男子が料理をする番組が当たり前に放送されている。
男子こそ料理の技術を身につけておけば、速攻注目を集めるだろう。
キャンプやバーベキューなどで男子力を発揮すれば、たちまちヒーローになれる時代だ。
初もんじゃは、人気メニューだった
「初めてのもんじゃは、いかがでしたか。」
「なんか、粉物の仲間を想像していましたが、別物ですね。
『紅の豚』のネーミングは面白いです。」
「それ、私がつけたんですよ。注文されるお客様が多いんです。もう30年以上続く人気商品です。」
お姉さんが嬉しそうに教えてくれた。
ジブリの紅の豚の公開は1992年だから、もんじゃメニューのネーミングとちょうど前後するのかな。
※ 月島のシンボル、西仲通地域安全センター
「食った、食った。」
あらっ、実際にもんじゃ焼きを体験すると、通りの様子までこれまでと違って見えてきた。
新鮮な具材を使った、もんじゃ焼き+鉄板焼きの看板も、通りのあちこちに出ていた。
「よし、今度は海鮮料理に挑戦してみよう。」
もんじゃ焼きの一人飯、もう怖くないぞ。
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