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夏越の祓  コロナを越えて いざ、アカ落としを!

(早くも茅の輪をくぐって参拝する姿がチラホラ=築地の波除稲荷神社で)

半年間のケガレを浄める古来の年中行事「夏越しの祓(なごしのはらえ)」。この時期、神社によっては、境内にイネ科の多年草、茅(チガヤ)を束ねた大きな輪が据えられ、「茅の輪くぐり」に訪れる人も目立ってきます。

折しもアフターコロナが実感される節目の夏。自粛中に心身に宿ったアカを落とすべく、6月30日が本番のこの風習を初体験してみる好機かもしれません。6月と12月を1年の各区切りとして、毎年、その晦日(みそか)にお祓をする習慣は、平安時代の宮中行事、さらには神話の時代にまで起源が遡るとも。特に6月(水無月)のそれは「夏越しの祓」と呼ばれ、京都では夏の風物詩となってきました。

600年余り前に誕生した能の世界には、「水無月祓」という珍しい演目もあります。下鴨神社の祓の日に、訳あって離れ離れになった相思相愛の男女が、それとも知らずに偶然再会し、今は悲嘆の余り狂気をおびた女が舞い語るうち、過去が甦って愛が戻るというストーリー。しっとりした風情の一方で、参拝客が集う行事の様子も伺えるようです。

 

 夏越の祓  コロナを越えて いざ、アカ落としを!

(境内には初心者用に8の字めぐりの指南書も=波除稲荷神社)

茅の輪は、門を2回くぐるように、まず右回り、次いで左回りと8の字を描いて、最後に社殿に進むのが一般的な作法。中央区内にも茅の輪を設ける神社はいくつかあって、主なところは、小網神社(日本橋小網町)、笠間稲荷神社東京別社(日本橋浜町)、末廣神社(日本橋人形町)、日本橋日枝神社(日本橋茅場町)、福徳神社(日本橋室町)、波除稲荷神社(築地)、鉄砲洲稲荷神社(湊)、住吉神社(佃)……。

茅の輪の設置時期は、各社まちまちですが、早い所では、波除稲荷神社がすでに6月1日から設けています。植木屋さんが1日がかりでつくりあげた茅の輪の脇には「疫病除」ののぼりも翻り、演出効果もたっぷり。多くの神社では中旬以降の設置となりそうです。

ただ、中には境内が手狭な神社もあり、末廣神社では8の字めぐりが難しいため、一回くぐり抜けるだけの直進型を進めています。そのほか、「うちの茅の輪はフラフープ(若い人、わかりますか?)程度の大きさ」という神社もあり、少々不謹慎ながら、あちこちハシゴしてみるのも一興かもしれません。

 

 夏越の祓  コロナを越えて いざ、アカ落としを!

(切り口もシャープな和菓子「水無月」は目にも涼やか)

神社によっては30日の神事後、お神酒をふるまうところもあるようですが、甘党には、その名も「水無月」という和菓子が「お祓」効果に一役買っています。三角形をした外郎(ういろう)などの白くもっちりした生地の上に、甘く煮た小豆を載せたもので、下の生地は夏でも冷気をかもす贅沢な氷室の氷を表し、小豆には魔除けの意味合いが込められているとか。京都では夏の季節菓子として定着しているそうです。

中央区内のデパートをのぞくと、ポツポツと「水無月」が売り場に並ぶ和菓子メーカーもあれば、6月最後の2日間だけの限定販売というコーナーも。総じて賞味期限の制約もあり数日程度しか扱わない店が目立つ上、発売日の表示も殆ど無いので、知る人ぞ知るという感じです。
それでも遅ればせながら関東でも扱う和菓子店はジワジワ増えてきた様子で、すでに百貨店のグルメ情報誌が特集を組んだケースもありました。もしかすると、いずれ商魂たくましい飲食業界やスーパーなどが、あの大ヒットした恵方巻のように「水無月」を次なる売れ筋に仕立てて……とは考え過ぎでしょうか。

ともあれ、観光がてらに神社の茅の輪をくぐる向きも、出不精で甘味による「おウチ祓」を決めこむ向きも、静かに半年間を振り返って邪気を払う本筋は忘れたくないものです。