【ニューヨク・タイムズ】 新世紀に誕生した奇跡の銭湯
「十思湯(じっしゆ)」 【日本橋小伝馬町】
今回ご紹介するのは、日本橋小伝馬町の十思湯 (じっしゆ)。十思スクエア別館にある銭湯です。
2014年7月14日にオープンした十思湯は今月でちょうど5周年。この日も一番風呂を待つ常連さんの姿がありました。地域にとって、もはやなくてはならない存在です。
50年前の東京には2,500軒ほどの銭湯がありました。現在はおよそ500軒。銭湯の数は減少を続けており、リニューアルオープンすることはあっても、新規開業することはまずありません。このような現代の東京銭湯の流れのなか、21世紀に中央区に誕生した十思湯は“奇跡の銭湯”と呼べるのではないでしょうか。
奇跡の銭湯のご主人は伝統ある銭湯のご主人でした
ご主人の黒川武彦さんです。以前は台東区蔵前にあった梅の湯を営んでいらっしゃいました。梅の湯は千鳥破風のある瓦屋根、格天井の脱衣所、富士山のペンキ絵といった関東地方の昭和生まれが銭湯と聞いて思い浮かべる特徴がたくさん詰まった銭湯らしい銭湯でした。
テレビのロケにもよく使われたという梅の湯は、2012年に映画『テルマエ・ロマエ』(※)の完成報告会見の会場になったことがあります。古代ローマの浴場と現代日本の銭湯を舞台としたこの作品は、主役を演じた阿部寛さんの完璧なローマ人ぶりが世界に衝撃を与え、大人気となりました。阿部寛さんといえば『新参者』シリーズの刑事・加賀恭一郎として日本橋エリアの顔とも言える俳優さんであり、何かとご縁を感じてしまいます。
※古代ローマの浴場設計師が現代の日本にタイムスリップしたことから巻き起こるストーリーをコミカルに描いたマンガを映画化した第1作。
梅の湯は惜しまれながら営業を終了しましたが、ご主人の長年のご経験はここ中央区で活かされていました。東京で一番新しい銭湯である十思湯に、古くから親しまれていた銭湯の系譜が受け継がれていることに深い感慨をおぼえます。
銭湯の管理はたいへん骨の折れる仕事です。毎日の準備と後片付けを手伝っているのは息子の智生さん。ご主人を支える頼もしい味方です。小さな頃から銭湯で働くお父さんの背中を見て育ったであろう息子さんがご主人とともに手際よく開店前の支度をこなす姿、それはまさに銭湯父子鷹でした。
それでは中に入りましょう
男湯と女湯は入替制ではありません。それぞれの浴室の様子は写真でご覧ください。
右側の青い暖簾が男湯。左側の赤い暖簾が女湯。
広々とした脱衣所。大きくて使いやすいロッカーは100円硬貨の返却式です。
江都名所日本ばし 歌川広重(男湯)
定番の富士山をペンキ絵ではなく、広重の浮世絵で見せるという手法は日本橋エリアならではの粋な計らい。
男湯、女湯とも浴槽はふたつあり、ひとつはあつ湯の設定です。
別料金のサウナは男湯は乾式サウナで水風呂付き。一方、女湯は癒しの湿式サウナです。
東京名所繁栄之内江戸橋之図 梅堂国政(女湯)
開化絵の華やかで豊かな色彩がのんびりと湯につかる人たちの目を楽しませてくれます。
洗い場のシャワーヘッドは固定式。伝統のスタイルです。
街の銭湯には珍しくカランごとに仕切りが付いています。公衆浴場に慣れていない人にも抵抗が少ない設えです。このほかに立ちシャワーも2基あります。
12基ある洗い場のうち、手すりが付いている2基のシャワーは固定式ではなくハンディタイプとなっていました。これは介助をする方にも使いやすい仕様です。十思湯は館内はもちろん、最寄りの小伝馬町駅からもエレベーターでアクセス可能です。随所に見られるバリアフリー設計に新世紀の銭湯であることを実感しました。
館内には休憩スペースがあり、ソファ、テレビ、自販機にマッサージチェアなどが設置されています。
ここでは洗い髪が芯まで冷えることなく男女のお待ち合わせができます。
十思湯と愉しむ まち歩き
十思湯のある小伝馬町駅とお隣の馬喰町駅周辺は、若者に人気のおしゃれなホステル(簡易宿泊所)が増え、海外からお越しの方も多く見かけるようになりました。十思湯でも貼り紙にはところどころ英語表記をしています。ご主人は外国語はお話しになりませんが、銭湯には難しいことは何ひとつないので、どなたでもお立ち寄りくださいとおっしゃっていました。館内が明るく、入口もわかりやすい十思湯は、旅行者の方が異文化体験をする場としてもおすすめです。
この界隈でまち歩きに最適なのが日本橋七福神めぐり。日本で最も短い時間で巡拝することができるコースと言われています。その起点または終点となる小伝馬町駅から人形町駅にかけてはいつもマップを片手に歩く人とすれ違います。
十思公園一帯には江戸三縁史蹟(石町 時の鐘、傳馬町牢屋敷跡、吉田松陰先生終焉之地)があり、歴史探訪系のまち歩きと組み合わせた渋めのフロハイリング(taking a bath)も味わえます。
まち歩きのあとは銭湯で汗を流しましょう。
十思湯(じっしゆ)
中央区日本橋小伝馬町5-19 十思スクエア別館2階
03-6264-9920 ※日本語のみ
小伝馬町駅
15:00 ~ 23:00
日曜定休
中央区内の銭湯一覧はこちら
中央浴場組合公式サイト ふれあいの湯 http://www.268chuou.com/
バックナンバーのご案内|NYT
ちょっとニューヨク・タイムズ ―銭湯と愉しむ まち歩き― (2018年10月8日付)
【ニューヨク・タイムズ】 東京銭湯で湯めぐりをしよう (2019年7月12日付)
※当記事は米国の高級日刊紙とは一切関係ありません。