勝三郎

思い出を未来へ結ぶ
―帯に新たな命を吹き込む「小梅や」

「そのバッグ、帯でできているんですよ。」店頭でそう声を掛けられ、思わず足を止めました。

歌舞伎座地下二階の木挽町(こびきちょう)広場。

東銀座駅と直結するこの広場は、歌舞伎関連の書籍や和雑貨、老舗の銘菓など、日本文化の魅力がぎゅっと詰まった、歌舞伎座のもう一つの玄関口です。観劇客だけでなく、銀座を散策する人や外国人観光客も多く訪れ、いつも活気にあふれています。

その一角で、ひときわ目を引くのが、金糸や銀糸が織り込まれた帯地のバッグやポーチです。帯を使ったバッグというと和装用を思い浮かべるかもしれませんが、小梅やのバッグはシンプルで洗練されたデザイン。

普段の洋服にも自然に合わせられるため、着物を着ない人にも愛用されています。照明を受けるたびに表情を変える美しい織りに、海外からの観光客が「Beautiful!」と歓声を上げる姿も珍しくありません。

この店が、埼玉県川越市を拠点に活動する”小梅や”です。

しかし、この店の魅力は、美しいバッグを販売していることだけではありません。一つひとつの作品には、帯を締めた人の人生、家族の思い出、そして日本の伝統文化を次の世代へ受け継ぎたいという願いが織り込まれているのです。

 思い出を未来へ結ぶ
―帯に新たな命を吹き込む「小梅や」

捨てられる帯を見過ごせなかった

「帯は、息をのむほど美しい絹織物なんです。」そう語るのは、”小梅や”女将の藤代とうこさん。

藤代さんは、小学校2年生まで、忙しい両親に代わり元芸妓だった祖母に育てられました。祖母がお正月や家族の誕生日に踊ってくれたときの着物の美しさが忘れられず、その記憶が現在の活動の原点になっています。

慶應義塾大学を卒業後、生活雑貨メーカーを経て、通信販売会社に入社し、カタログ編集やカスタマーサポートに携わります。その一方で、着物を着る人が減り、価値ある帯や着物が大量に廃棄されている現実を知ることになります。

 思い出を未来へ結ぶ
―帯に新たな命を吹き込む「小梅や」

「こんなに美しいものが、このまま捨てられてしまうなんて。」その思いを胸に、2022年、会社員として働きながら小梅やを立ち上げました。

最初に使ったのは、祖母が大切に保管していた100本ほどの帯でした。

恐る恐るマルシェに並べた帯バッグでしたが、作品だけでなく、その背景にある物語に共感する人が次々と現れます。

「母が編んだ帯じめと、母に誂えてもらったお気に入りの帯で、バッグとミニポーチをお願いします。」成人式などで装った帯に、お手製の帯じめを合わせたセミオーダー。美しく仕上がった作品を見ながら、家族の会話も弾むことでしょう。帯は役目を終えるのではありません。新たな姿となって使われ、これからの思い出も重ねていくのです。

もう着物を着る機会はないけれど、手元で愛していきたい。そんな依頼が全国から寄せられるようになり、“小梅や”はバッグブランドという枠を超え、思い出を日々の暮らしによみがえらせる活動へと育っていきました。

売ることより、想いをつなぐこと

一本の帯には、その人だけの人生があります。成人式で締めた帯、結婚式を彩った帯、あるいは母から娘へ受け継がれた帯かもしれません。藤代さんが大切にしているのは、その帯に込められた思いを受け止め、新たな姿へと生かすことです。

そのため、"小梅や"では帯をできる限り余すことなく生かします。バッグは帯の幅をそのまま用い、裏地には帯の裏布を、持ち手には帯締めを使うなど、素材の持つ美しさを最大限に引き出しています。同じ柄、同じ織り、同じ状態の帯は二つとないため、完成する作品はすべて一点ものです。

その作品を仕立てるのは、高い技術を持ちながら活躍の場が少なくなった地域のお針子さんたち。バッグ には、TOKOAKANEYURIKAなど、作った人の名前がついており、熟練のお針子さんの技術と個性が息づいています。

 思い出を未来へ結ぶ
―帯に新たな命を吹き込む「小梅や」
 思い出を未来へ結ぶ
―帯に新たな命を吹き込む「小梅や」

また、販売の利益はしっかりとお針子さんに還元し、地域の伝統文化や繊維産業にも還元することを決めています。

こうした"小梅や"の姿勢を象徴するのが「帯と、あなたと、お針子さんが輝くプロジェクト。」という言葉です。ここには、帯だけでなく、持ち主も、今や10名になったお針子さんたちも、それぞれが主役であるという小梅やの理念が込められています。

歌舞伎座だからこそ出会える日本の文化

歌舞伎座は、観劇を楽しむ”晴れの場”であり、着物姿で訪れる方が多い劇場です。美しく装った観劇客が行き交い、日本の伝統文化が今も暮らしの中に息づいていることを実感できる場所でもあります。

その歌舞伎座・木挽町広場で、それぞれの想いがこもった帯が、新しいバッグやポーチとなって再び人々の目を楽しませる。そして、それを手に取るのは、着物を愛する人、日本文化に親しむ人、さらには海外から訪れた観光客の方々です。

実際に作品を手に取ると、帯ならではの重厚な織りや絹の上品な光沢、繊細な文様に思わず見入ってしまいます。その美しさに魅せられると同時に、「この帯は、誰かの人生の節目を彩ってきたのだろうか」と、自然に想像が膨らみます。

歌舞伎座を訪れた際には、ぜひ木挽町広場を歩いてみてください。帯バッグを一つ手にすることは、これからの暮らしの中で、日本の美を受け継いでいくことにもなります。

歌舞伎の舞台だけでなく、この広場にも日本の美と人の思いを未来へ結ぶ物語が息づいています。そして、その物語を静かに語り続ける”小梅や”さんが、皆さんを待っています。

※この店舗は8月・9月の木挽町広場開設時の出店は決まっています。出店は不定期ですので、出店情報はこちら木挽町広場のホームページでご確認をお願いします。

帯バックの種類・価格ほか"小梅や"の情報は、こちらをクリック

埼玉・川越を拠点に、その活動は世界へ

"小梅や"の取組は、多くの共感を呼び、近年さまざまな評価を受けています。

2023年には、埼玉県主催の女性起業家支援事業「Smile Women Pitch」で、審査員特別賞とオーディエンス賞をダブル受賞しました。このコンテストは、女性起業家の優れたビジネスプランを発掘・支援し、国内外で活躍する起業家を育成することを目的としたもので、事業性に加え、社会課題の解決や地域への貢献性も重視されます。小梅やの「帯を生かし、人を生かし、地域資源を生かす」取組が高く評価されたのです。「すべてのプレゼンテーションを見守った会場の観客の投票で決まるオーディエンス賞をいただけたのがとても嬉しかったです」と藤代さん。

また、2025年には、「埼玉県荻野吟子賞(奨励賞)」を受賞しました。現在、連続テレビ小説『風、薫る』では日本の近代看護の草分けとなった女性たちを描いていますが、荻野吟子はこれと同時代に、さまざまな偏見や困難の中、日本初の公認女性医師になった偉人です。その不屈の精神と功績をたたえ、その志に通じる女性の活躍や地域社会への貢献などに対して贈られる賞です。今回、帯のアップサイクル(不要になったものを、価値ある新しい製品へ生まれ変わらせること)を通じて、お針子さんの活躍の場を広げ、伝統文化の継承と地域づくりを結び付けてきた活動が評価されました。

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―帯に新たな命を吹き込む「小梅や」

さらに、その活動は今や地元川越だけにとどまりません。ポップアップストアの展開を、歌舞伎座木挽町広場を皮切りに、ニューヨーク、台北、シンガポールへと広げ、日本の帯文化を現代の暮らしの中によみがえらせる取組として、国内外で注目を集めています。

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女将藤代とうこの信念ともう一つの夢

糸と吉でできている「結」は、良いことをもたらす糸という意味があります。藤代さんが大切にしているのは『五つの結び』。そこには、「帯を生かす」「人を生かす」「思いをつなぐ」「地域に還元する」「世界へ届ける」という、ものづくりの五つの理念が込められています。この理念が多くの人の共感を呼び、川越から世界に広がる原動力になっています。

そして、藤代さんにはもう一つ、温めている夢があります。

「おしゃれの中心地である銀座で、年齢も国籍も問わず、一番の晴れ着である「振袖」を身にまとい、100人でパレードがしたい!!」というものです。思い出深い着物や帯をもう一度輝かせることができる。もちろん、手元には小梅やの帯バックを持って。

国内最大級のプレスリリース配信サービス「PR TIMES」では、企業や団体、個人が実現したい夢を応援する「April Dream」プロジェクトを展開しています。"小梅や"もこの企画に参加し、20244月、「振袖100人パレード」を掲げました。その夢の原点にあるのは、帯やきもの文化に対する深い愛情です。

その詳細はこちらをご覧ください

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―帯に新たな命を吹き込む「小梅や」

 

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“小梅や”
女将 藤代 とうこTOKO FUJISHIRO

川越アトリエ

〒350-0066 埼玉県川越市連雀町16-8  2階
TEL 090-8496-5269

★完全予約制
主な営業時間:木・土・日曜日 14:00~18:30

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中央区と川越市との不思議なご縁

藤代さんが川越と縁を結んだのは、大のお神楽好きだったことがきっかけでした。

毎年10月に開かれる川越まつりは、豪華な山車が蔵造りのまち並みを巡り、お囃子や神楽が街中に響き渡る、川越を代表する伝統行事です。その文化の息づく街の魅力に惹かれ、川越を活動の拠点とするようになりました。

そして実は、中央区と川越には、ちょっとしたご縁があります。歌舞伎座に近い中央区役所の所在地は「新富町」。一方、小梅やの拠点・川越市の中心部にも「新富町」という地名があります。1987(昭和62)年、有楽町線と東武東上線の相互直通運転が始まった際には、営団地下鉄(当時)の車両が「川越市」行、東武鉄道の車両が当時の終点「新富町」行の行先表示を掲げて記念式典が行われ、この二つのまちの不思議なご縁が話題となりました。

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―帯に新たな命を吹き込む「小梅や」