「観光おもてなしスタッフ」覚え書き
※ 江戸桜通りの景
重要文化財に指定された建物群を背景に、満開の桜が姸を競うかのように咲きほころぶ様は見事です。
日本橋界隈が華やかさに包まれる、心浮き立つ時です。
例年であれば、東京の桜は3月末に盛りを迎えていましたが、今年の日々変わる天候のなせる業。
桜満開の季節が、ちょうど新入学の時期に重なるという珍しい風景が現れました。
さて、花見クルーズや花の下の散策をメインとしたツアーが、3月末を基準に企画されました。
ツアーのお客様をご案内するガイドさん達も、さぞや困ったことでしょう。
花が咲いていないうえに、連日の雨の天気。ますます強くなる風雨にクルーズも運休です。
まあ、どうしたらいいんでしょう。
「日本料理の老舗の特性ランチはいかがだったでしょうか。
さあ、これから日本橋周辺の散策の時間です。が、あいにく外はちょっと強めの雨。
桜クルーズも、すでに運休が決定しています。
昨年の今頃は、通りの桜も満開でしたが、今年はもう少し先になりそうですね。
でも、大丈夫ですよ。日本橋は見どころがいっぱいです。
楽しい時間になるように、明るく元気にガイドを務めてまいります。
どうぞよろしくお願いいたします。」
「観光おもてなしスタッフ」は、中央区観光協会の募集により、区の魅力の紹介やまち歩きツアーのガイド、通訳などの活動を行っています。
応募種別は(1)日本語観光ガイド。(2)外国語観光ガイド。(3)外国語観光通訳サポーターがあります。
応募条件は種別ごとに異なります。
(1)と(2)の観光ガイドは、「中央区観光検定」の合格が必要であり、各種講習会の受講を通して知識と経験を積んでいきます。
区内の様々な場所を、実際にお客様と歩くガイドの活動は、毎回変化にとんだ手ごたえのあるものです。
個性豊かなガイドさん
ガイドの経験豊かな方々が沢山いらっしゃいます。
多くのことを教えていただく機会に恵まれました。
もしそうした先輩方と自分との違いを上げるならば、旅先で多くのガイドさん達からお客様の立場で話を聞いてきたことでしょうか。
そのうえで、はっきりと言えることは...。
ガイドの話を、お客様はほとんど覚えちゃいません。
乱暴な言い方かもしれませんが、観光地の先々でお世話になったガイドさんの話も、夕飯を食べるころには、ほぼ記憶から消えています。
パンフレットや撮りためた写真を見返したときに、「そういえば、ガイドさん楽しかったなぁ」と思い出すくらいです。
ガイドの役割は、第一には予定された時間通りに、安全に確実に目的地までご案内することです。
ツアー本番に向けて、毎回相当な分量の台本や資料をまとめます。
コースの下見も複数回行い、体調を整えて本番に臨みます。
お客様に「楽しかったなぁ」の記憶を留めていただくための作業です。
請け負った以上は当然のことですよね。
そして本番では一度作成した台本を、お客様に合わせて思い切り削り、あえて話さないという作業を行うことが肝要だと思います。
時折、「何々があったので、うまく話せなかった」という言葉を聞くことがあります。
伝えるための努力は必要でも、言葉にしたことが伝わると思い込むのは危ないと思います。
物事はシナリオ通りに進むことはまずありません。
不測の事態に備えて対応することこそが、ガイドに求められる役割です。
一期一会
降雨時の傘をさしての移動は大変です。
できるだけ衣服が濡れないように、地下道を進むコースを選ぶこともあります。
日本橋には雨に濡れない場所に、強い味方があるのです。
三越前駅のA5出口とA3出口の間の地下コンコース壁面にある「熈代勝覧(きだいしょうらん)」
お客様が、「とざい東西、だって」と言いながら解説文を読み出しました。
その声の流れに、私は低音パートで合わせてみました。
「とざい東西、ここにくり広げたる絵巻は、大江戸八百八町のなかでも、とりわけ名高い日本橋」
初見でよどみなく読みこなせるお客様はなかなかいません。
和服が似合うであろうその方は、相当な手練れとお見受けしました。
「熈(かがや)ける御代(みよ)の勝(すぐ)れたる大江戸の景観」をとくとご覧あれ。
思わず拍手が沸きあがりました。
※ パンフレットの見開きページより
そのまま、皆で200年前の日本橋の絵の中に入り込みました。
行き交う人の姿を愛で、ごった返す人々の間をくぐり、商家に並ぶ品物を覗き、描かれている動物たちを探しました。
江戸の街歩きを堪能。
雨の日でも、晴れやかな気分に変えちゃいましょう。
応募してみませんか。
想定していなかったことに巡り合える、多くの素敵なお客様に出会える機会。
その出会いを、思い切り楽しんじゃいましょう。