明治17年、日本橋馬喰町で創業、
「日本名門酒会」(株)岡永 飯田社長にインタビュー
~良い酒を佳い人に~
「日本名門酒会」(株)岡永 飯田永介社長
4月も終わろうとするこの時期は、二十四節気の春の最後「穀雨」にあたります。そして、5月に入ると、暦のうえでは初夏となる「立夏」が始まります。また、この時期は、日本酒の世界においても「春酒」から「夏酒」へと切り替わる季節となります。
今回のブログは、そんな日本の四季を大切に日本酒の卸問屋をなさっている「日本名門酒会」(株)岡永 飯田永介社長にインタビューをさせていただき、社長の日本酒に対する熱い思いをうかがいました。
はじめに
私が初めて「日本名門酒会」を知ったのは、昨年6月に(株)加島屋 廣岡社長からいただいた「酒販ニュース」(酒販業界の専門紙)の「夏の生酒」の広告でした。
その広告は見開き一面に「日本名門酒会」加盟の酒蔵の銘柄がずらりと並んでいて、まさに初夏にふさわしい爽やかなものでした。
そして、そのとき、「日本名門酒会」はどのような活動をしているのだろうか、いつか取材をさせていただき、ブログでご紹介できればと思い、それから半年後、ご縁あって新川大神宮の樽酒祭で初めて飯田社長とお会いし、念願のインタビューが実現しました。
「日本名門酒会」の立ち上げの経緯を教えてください
まず、(株)岡永ですが、私どもは明治17年(1884年)に初代・飯田永吉(私の曽祖父)が創業しました。今年で創業140年となり、私は4代目の社長となります。そして、「日本名門酒会」は、地酒の販売ネットワークを作ろうじゃないかということで、昭和50年(1975年)に父・飯田博が立ち上げました。
それまで私どもは食品を多く扱っていました。大手食品メーカーさんとの特約もたくさんあって、スーパーさんにも多くの商品を卸していました。おそらく日本酒よりも食品の方が売上げが多く、とても忙しかったと聞いています。そして、高度経済成長期の中、忙しくなればなるほど利益が上がらなくなり、気がつけば手元に何も残らなくなっていたようです。
この頃の父の日記を見ると、「八方塞がり」という言葉がたくさん出ていて、どうしたらよいかわからない、という状態だったと思います。
そうした中で、問屋というのは元々は情報産業ではないか、全国のお酒の情報をしっかり持って、それを酒販店さんに卸していく、そのような「形」を作りたいということで、「日本名門酒会」が立ち上がりました。
左)明治39年(1906年)1月2日の「岡本屋永吉商店」((株)岡永の前身)。日露戦争終結の翌年の正月に撮影されたものだそうで、2代目社長の飯田紋治郎氏(一番左、当時18歳)と初代社長の飯田永吉氏(その隣、当時49歳)が写っています。(飯田社長より提供)
右)現在の(株)岡永の本社・岡永ビル(中央区日本橋馬喰町1-7-3)。1階には立ち飲みスペースもある「岡本屋永吉商店」が入っています。
どのような思いで「日本名門酒会」を立ち上げたのでしょうか
「日本名門酒会」を立ち上げるにあたって、次の3つの思いがあったと思います。
まずは、日本酒の復活・復興です。日本酒の国内出荷量のピークは昭和48年(1973年)で、そこから右肩下がりの状況が続いていたので、それを復活・復興させたいという思いがありました。
次に、当時の酒類業界は、ビールやウイスキーで寡占状態でしたので、流通が主体性を持って活動できる場として、日本酒に着目し、日本酒を中心に強い専門店(酒販店さん)を作っていきたいという思いです。
そして、3つ目として、日本酒をしっかりと広めること(啓蒙活動)ができる組織を作っていきたいということです。
どのようにして今の「形」となったのでしょうか
最初は父が全部歩いて酒蔵さんとコミュニケーションをとっていきました。元々知っている銘柄もありましたし、色々な方々のご紹介もありました。また、その当時、お酒に詳しい農芸化学の先生方などもいたようで、そのような専門家の皆さまからもご紹介を受けたりしていました。
そうしているうちに、賛同してくださる同志が増え、酒蔵さんが12銘柄ぐらい、酒販店さんが何十店となり、最初は少ない数でのスタートでしたが、それから徐々にその数も増え、活動が大きくなっていきました。そうして、全国展開が始まり、今の「形」となりました。
現在、酒蔵さんは、全国で約120社となり、酒販店さんは約1,500店となりました。
現在はどのように会員が増えていますか
試飲会などで新しい酒蔵さんとお会いし、それがきっかけで会員になっていただくケースが多いです。
試飲会は全国各地で行われています。東京だと、先日、恵比寿で秋田のお酒の試飲会(秋田県酒造協同組合さん)がありましたが、私どもは、必ずそういう会場へ行って、味を確認してみたり、そこで色々な方々から酒蔵さんをご紹介いただいたりしています。
最近では、大きな酒蔵さんが増えるということはあまりないのですが、小さな酒蔵さんが少しずつ増えています。
スローガン「良い酒を佳い人に」について
このスローガンは初代の頃から使っています。文字どおり「良いお酒を佳い人に飲んでいただきたい」という意味です。私はあたりまえのように思っていましたが、もう少し詳しく説明しますと、「良い酒を、良い店を通じて、佳い人に飲んで欲しい」という本来の流通の意味合いを表そうとしたメッセージだと思います。
そして、その「良い店」の要素を「日本名門酒会」の“名門”という意味で申し上げると、それは「その土地で育まれた長い歴史と伝統の中で、その地域の食文化を支えているような、そこに根差しているような、そういうものがお酒に表れている、そして、お酒以前に人にも表れている、まさにお酒を造っている人の品格」だと思っています。
新しい酒蔵さんと取引をするときは、もちろん今造っているお酒もそうですが、そのお酒に将来性があることが大切だと思っています。造り手の理念とか経営方針とか哲学とか、そういうものがしっかりしている、やはり人柄とかを含めて、“名門”というのはそういうことをトータルで表した言葉だと思います。
お店が日本橋馬喰町にある理由を教えください
ふつう酒問屋といえば、新川なのですが、私どもの場合は、当時、この場所に「岡本屋」という、色々な仕事をされていた商店があり、その店から暖簾分けしたようです。
そして、曾祖父が「永吉」という名前だったので、「岡本屋永吉商店」となりました。1階に今ある店の名前と同じです。
そこから、(株)岡永となり、味噌や醤油などを扱うようになって、今では日本酒を中心とした卸問屋となりました。創業から現在までこの地で商売をしています。
「岡本屋永吉商店」を開いた経緯について教えてください
岡永ビル1階に入っている「岡本屋永吉商店」
「岡本屋永吉商店」は私どもの岡永ビルの1階にありますが、実は1階の同じ場所で、平成元年(1989年)から平成30年(2018年)まで「岡永倶楽部」というサロンをやっていました。入会金5,000円を払えば入会できる日本酒中心の会員制倶楽部です。それこそ重たいドアを開けて店に入るという、今とは全く逆のクローズドスタイルでした。
この辺りは、今でこそホテルやマンションがあり、夜も人が歩いていますが、その当時は夕方6時を過ぎると、人っ子一人いませんでした。ですから、ここでふつうに店を開いても繁盛しないだろうということで、会員制の店にして、会員のネットワークを作っていこうということになりました。
会員は常に何千人というメンバーがいました。イベントをやるときはその方々を中心に案内しました。それまでは一般のお客さまというのは一切関係なかったのですが、「岡永倶楽部」をやるようになってからは、そのようなお客さまとの触れ合いができるようになりました。
しかし、時代が進み、街も変わってくると、会員制倶楽部というのは、さすがにどうかなぁと、あの重い扉を開けて入るようなスタイルは、今の時代に合わないなぁと、特に最後の数年間はそう感じていました。
それで、どうしようかということになり、ちょうど息子がいましたので、息子にも相談したところ、何か違う形態をやりたいという話となり、初めて小売店を作ることになりました。そして、店の奧に立ち飲みスペースを作り、オープンスタイルの店にしました。今までと逆の発想です。
「岡本屋永吉商店」のコンセプトは何でしょうか
コンセプトは、お酒とともに全国各地のおつまみ(珍味)やお酒に関するグッズ類をショールーム的に販売するアンテナショップです。
お酒を飲んでいただいても、物品を買っていただかないと、本当のショールームにはならないと思います。そういう意味でも、今の時代のショールームになるよう色々な工夫を凝らしています。
試飲会も頻繁に開催していますので、全国から酒販店さんも見学に来られ、見学後はいつも飲んで帰っていただいています。
「岡本屋永吉商店」の店内。選りすぐった日本酒に加え、全国各地のおつまみ(珍味)やお酒に関するグッズ類が並んでいます。そして、店の奥には立ち飲みスペースがあります。お酒好きにはたまらない空間です!
冷蔵庫には、新酒しぼりたてのスペシャルな味わいが楽しめる「無垢之酒(むくのさけ)」や日本の春を彩る「春和酒(はるなごみざけ)」などが多数ラインナップされていました。
「岡本屋永吉商店」の特徴は何でしょうか
以下の3つの特徴があります。
まずは、気軽に一杯ずつ飲め、色々なお酒を飲み比べることができます。また一人でも気楽に飲むことができます。
2つ目は、おつまみがすべて「日本名門酒会」加盟の酒販店さんで販売いただいている商品となっており、全国の色々な珍味を少しずつ食べることができます。
3つ目は、季節によって商品が丸々全部入れ替わるので、季節ごとのお酒を味わえることができます。
「岡永俱楽部」の時代からあるカウンターで好きなお酒とおつまみを注文し、テーブルでゆっくり飲み比べることができます。
左)飲み比べをした「無垢之酒」3種。左から、名倉山(福島/会津若松)、信濃錦(長野/伊那)、開華(栃木/佐野)。いずれも無濾過・生原酒の純米吟醸酒で、しぼりたての爽やかな酸味とピュアな甘味を楽しむことができました。
右)2024年無垢之酒ラインナップ。ラベルもとても美しく魅力的です!(日本名門酒会HPより転載)
「日本名門酒会」の活動について教えてください
「一年52週の生活提案」で年間を通したお客さまづくりのサポートを行っています。
私どもは酒販店さん向けに「名門酒百花」というカタログ(下の写真上)を作っているのですが、その中に酒販店さんの一年52週の活動を提案した「基本シート」(下の写真下)というものがあります。
そのシートには、赤い折れ線グラフがあるのですが、それは日本酒の売上げの推移を示したもので、12月の終わりに一番高いヤマがあり、そのヤマをどう高くしていくか、そのためには一年をどのように活動していくか、しっかりイメージをして年間計画を立てて販売していこう、という内容になっています。
そして、もう一つ2月に大きなヤマがあるのですが、これが「立春朝搾り」のヤマになります。
「立春朝搾り」というのは、立春の日の朝にお酒を搾り、その日のうちにご予約いただいたお客さまへお届けするという私どもの名物企画です。ふつう2月は「ニ八」といって売上げが低調になるものですが、この企画をやることによって、この日が一年で一番お酒が動く日となりました。
これは私どもの特権で、加盟店になると、この企画に参加でき、努力次第ではかなりの数を皆さま販売します。例えば、ご夫婦二人だけでやっている酒販店さんでも一日に500本ぐらい売り上げます。ということは、少なくとも500人ぐらいのお客さまに声をおかけし、接点ができるので、これは色々な意味でのベースになるということです。また、一年間のメリハリという意味でも重要なイベントになっています。ちなみに、今年は43蔵で行い、274,000本を販売しました。
酒販店さん向けのカタログ「名門酒百花」(上)とその中にある「基本シート」(下)(飯田社長より提供)
さあ、「夏の生酒」が始まります!
これから本格的にスタートする「夏の生酒」。見るからに涼やかなお酒が勢ぞろいしています。(日本名門酒会HPより転載)
「立春朝搾り」が終わると、次のイベントは、今月から既に始まっている「夏の生酒」です。
商品としては、いっさい火入れをしない「夏の生酒」と一回だけ火入れをする「夏涼酒(なつすずみざけ)」の両方を出しますが、「夏の生酒」をメインでやります。
「夏の生酒」というのは、搾り立てから少しだけ時間が経って少しだけまろやかになっています。そして、少しアルコール度数を落としたものになっており、爽やかな感じに仕上がっています。まろやかで爽やかで、まさに夏にふさわしいお酒です。夏の食材に合わせて、よく冷やして飲んでいただければと思います。
食材としては、例えば、鮎とかがよいですね。少し苦味があって香りがあって、そういうものととても合うと思います。それと、枝豆やそら豆などもよいと思います。豆類とお酒はとても相性がよいものです。
これからの酒販店さんの動きとしては、そろそろ仕入れの準備を始めて、店頭で試飲会などのイベントを行ったりします。
イベント中には、酒販店さんにアンケートを実施してお酒の人気投票をします。そして、その結果を公開しますので、今どのお酒が支持されているのかがわかります。それによって酒販店さんも、じゃあこれを仕入れてみようか、と色々な商品を展開することになります。このように計画的に意味を持たせてイベントを行うことが一番大切だということです。
季節季節の提案は、小売り業界、特にスーパーさんなどでは、あたりまえのようにやっていますが、日本酒ではあまりなかったと思います。そして、これまでの日本酒の販売、品揃えというのは、“待ち”で商売をしているケースが多かったと思います。しかし、これからはそういうスタイルではなくて、こちらから予約を取りに行く、こちらからアピールをして集まっていただく、そういう意味ではイベントだったりとか、予約販売の方法だったりとか、そういったものでお客さまを増やしていくのが重要になってくると思います。
【「夏の生酒」のサイト】
https://www.meimonshu.jp/modules/xfsection/article.php?articleid=88
「肉フェス」開催!今年のGWはお台場へ!
GW(4/26~5/6)にお台場で開催される「肉フェス」に「岡本屋永吉商店」が出店します。
肉フェスへの出店は、私どもとしては初めてで、宮城県一ノ蔵の日本酒「ひめぜん」をソーダ割り、ロック、ストレートでご用意し、皆さまのお越しをお待ちしております。
「ひめぜん」は、フルーティでジューシーな新感覚の日本酒で、その爽やかな香りと果実感あふれる風味は、美味しいお肉に合うこと間違いないと思います。
GW・初夏のひと時、ガッツリ肉を食した後は、「ひめぜん」でのクールダウンはいかがでしょうか。
【肉フェス2024 Worldセレクション TOKYO】
社長のこれからの思い・抱負をお聞かせください
「日本名門酒会」の理念どおり、日本酒を復活・復興させること、つまり、今のこの時代に色々な方々に飲んでいただく、そして、次の世代の方々にもしっかりと飲んでいただくことが一番の使命だと思っています。
そして、そのためには、やはり日本酒を知っていただく、体験していただくということから始めないといけないと思っています。
それと、酒蔵さんは地域でしっかりと地域の文化を引き継いでいただいて、自分のところはこういうお酒なんだというコンセプトを持って、しっかりと造り込んでいただく、それが文化として日本酒が広まっていくということだと思います。
私どもの仕事というのは、価値を「形」にして広めていく、卸の仕事って、それしかないと思っています。それがないと広まりませんし、次の世代にも伝えられないと思います。
今やっている仕事はもちろん大事ですが、それがどう将来につながっていくのか、どこかでイメージできる仕事をし続けたいと思っています。
おわりに
今回のインタビューを通じ、(株)岡永さんの長年の販売ノウハウをお聞きすることができ、年間計画の重要性、エビデンスに基づいた販売がとても大切であることを改めて認識しました。
特に年間計画を立てるにあたっては、米と水から造られている日本酒だからこそ、日本の四季に合わせ、春夏秋冬さまざまなお酒を造っていく、そしてその季節に合わせた販売方法をエビデンスとともに考え、啓蒙・展開していく、まさにこれこそが日本酒を広めていくために欠かせないプロセスなんだろうと思いました。
私たちは四季のある日本に生まれ、日本の四季を感じながら、季節季節の日本酒を日々味わうことができます。何と素晴らしいことでしょうか。今回のインタビューを通じ、そのことを何度も強く感じました。
【日本名門酒会】
本部は「株式会社 岡永」の中におかれています。
【株式会社 岡永】
本社
〒103-8380 東京都中央区日本橋馬喰町1-7-3
TEL 03-3663-0335 FAX 03-3249-3570
東京支店
〒103-8380 東京都中央区日本橋馬喰町1-7-3
TEL 03-3663-9100 FAX 03-3663-9115
【岡本屋永吉商店】
https://www.okanaga.co.jp/okamotoya/
住所
東京都中央区日本橋馬喰町1-7-3 岡永ビル1F
営業時間
[月-金]12:00 - 22:00(角打ちのL.O. FOOD 21:00, DRINK 21:30)[土・日・祝]定休日
※ 取材は4月上旬にさせていただき、店内の写真はそのときに撮影したものとなります。