「日証館」東京都選定歴史的建造物へ
金融・証券の街「日本橋兜町」。
商業、証券界の守り神とされているのが、東京証券取引所の北側、日本橋川を背にしてたたずむ「兜神社」です。
境内には、その名前の由来となった兜岩があります。
源義家の奥州征伐(前九年の役、後三年の役)の際の戦勝祈願や、承平の乱の平将門などにまつわる伝承を持っています。
信仰の対象として、幾星霜を経てきました。
日証館
兜神社の隣に建つ建物が「日証館」。
渋沢栄一邸宅跡地に建てられた、兜町のランドマークです。
昨年、2024年12月25日、東京都景観条例に基づき、歴史的な価値を有し景観上重要な建造物として「東京都選定歴史的建造物」に選定されました。
昭和3年(1928年)に建設された、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)の地上7階、地下1階建ての建物です。
東京都都市整備局のホームページには、選定の概要が次のようにまとめられています。
『建築家横河民輔が設立した横河工務所の代表的な建築作品である。基壇の大きな石張り、入口と最上階のアーチ窓が並ぶ重厚な意匠が、証券会社が立ち並んでいた日本橋兜町の歴史的景観を今に伝える建物である。』
なるほど、品格のある外観は、金融の街に確かなアクセントをつけています。
横河工務所が手掛けた設計は、旧三井本館や三越日本橋本店、日本工業倶楽部など、日本橋界隈に多く見ることができます。
エントランスホールに入ると、重厚感のある落ち着いた内装が迎えてくれます。
建物の中で繰り広げられたであろう物語の場面、場面が一瞬フラッシュするような気分になります。
天井の構成を白でまとめたことにより、ガス灯を思わせる灯具と相まって、広がりと軽やかさを演出しています。
壁面に歴代の建物のプレートが掲げられており、渋沢栄一翁とのつながりを読み解くことができます。
渋沢翁は、明治21年(1888年)辰野金吾設計による邸宅を建設し、事務所として使用していました。
大正12年(1923年)9月1日、関東大震災発生の時、渋沢翁は事務所書斎で執務中だったといいます。
避難して無事でしたが、事務所は全焼してしまいます。
以降、耐火性や耐震性を高めた建物が建てられて行きます。
建物の正面左側の柱に、2枚のプレートが貼られています。
日証館、そして兜町と渋沢栄一翁とのつながりを示すものです。
※ tealのパンフレット
日証館は、平和不動産が所有するオフィスビルです。
1階のオフィス空間をリノベーションして、令和3年(2021年)にチョコレート&アイスクリームショップ「teal(ティール)」がオープンしました。
まぁ、なんとお洒落な店舗でしょう。
私が持っていた兜町のイメージをぶっ壊してくれました。
散策で少し疲れた時、果汁いっぱいのジェラートを口に運ぶと、つい笑みが湧いてしまいます。
大河ドラマ、「青天を衝け」の放映によりできた人の流れを、しっかり受け止めていました。
昨年12月、「東京都選定歴史的建造物」選定に合わせるように、1階に新たな空間が開業しました。
カカオの新たな可能性を探求するラボ「nib(ニブ)」とフレグランスロビーが一体になった施設。
「カカオの・・」仰々しいフレーズだなとは思いましたが、たしかに「カカオって面白い素材」と感じさせてくれる驚きがありました。
休日の散策の立ち寄り処が、また一つ増えました。
街中の建物の壁に取り付けられた案内板。
うなぎ登りの縁起を担った「松よし」。老舗の鰻屋さんです。
もう店舗はありませんが、プレートに残してくれました。
日本橋兜町の街づくりに携わる方々の心意気が伝わる証しです。