あすなろ

老舗の軒先で出会った、可憐な秋の七草

空の高さや風の涼しさに確かな秋の訪れを感じるこの頃。日本橋人形町を散策しておりますと、ある老舗の軒先で、なんとも風情のある美しい鉢植えに出会いました。

その鉢植えが置かれていたのは、香老舗 松栄堂 人形町店さんです。暖簾をくぐる前から、どこか心落ち着くお香の香りがふわりと漂う店先で、近づいて目を凝らしてみると、そこにあったのは秋の七草の一つである「藤袴(フジバカマ)」でした。藤色の小さな花が、まるで袴を穿いているかのように身を寄せ合って咲く姿は、実に品があり、眺めているだけで心がすっと澄み渡っていくようです。

 老舗の軒先で出会った、可憐な秋の七草

この藤袴、実は生花のときにはほとんど香りがありません。しかし、一度葉を乾燥させると、まるで桜餅を思わせる、甘くふくよかな香りが立ち上り始めます。

かつて平安貴族たちは、この乾燥させた藤袴の葉を衣服や髪に着け、あるいは防虫を兼ねて袂に忍ばせ、その豊かな香りを愉しんだといわれています。西洋の香水のように「強く香らせる」のではなく、暮らしのなかに「ほのかに薫りを行き渡らせる」、そんな日本ならではの奥ゆかしい香りの美意識を思い出させてくれます。

 老舗の軒先で出会った、可憐な秋の七草

皆さまも人形町へお越しの際は、ぜひ松栄堂さんの軒先で秋の風情を感じ、いにしえの人が愛し、今なお受け継がれる稀少な日本の薫りの文化に触れてみてはいかがでしょうか。

 老舗の軒先で出会った、可憐な秋の七草

◆松栄堂 人形町店
 東京都中央区日本橋人形町2-12-2

◆藤袴(2024年10月)

◆秋意 行合の空(2019年9月)

◆秋の気配(2025年9月)