小江戸板橋

「こわいのがいい」

※ 灯点し頃(ひともしごろ)の晴海図書館を、豊洲大橋から臨む

 

中央区内で一番新しい図書館は、令和6年(2024年)7月1日に開館した「中央区立晴海図書館」です。

晴海四丁目8番1号に建つ、晴海区民センターの3階・4階を占めています。

豊洲運河を前に、開放的な空間が広がります。

 

最近の公立図書館は、とても明るく、使いやすくなっています。

図書館と言えば、蔵書の劣化を防ぐために館内を薄暗く保つのが一般的です。直射日光が降り注ぐ広い窓を取り入れることなど、モッテノホカだったはずです。

それが紫外線を遮断する建材の技術向上や、空調管理の充実によって、明るい図書館が可能になりました。

 

 「こわいのがいい」

 

このエリアは、2020年東京オリンピック・パラリンピックの選手村として使用された区域です。

2021.11.7 「明日へ飛立つ、若木たち」で、「選手村ビレッジプラザ」についてまとめました。

全国63の自治体から集められた木材を活用して建てられました。

図書館内に施された多数の木材、装飾は、あのビレッジプラザに繋がっていたのですね。

 

 「こわいのがいい」

※ 図書館内の写真は、図書館案内および館報を用いました。

 

利用して気づいた特徴は、児童エリアの充実です。

親子で楽しめる広いスペースには、絵本、紙芝居、物語、学習教材が並びます。

 

 「こわいのがいい」

 

「おはなしのへや」は、防音効果の高い空間で、定期的にお話会が開かれます。

 

 「こわいのがいい」

 

「はだしスペース」では、靴を脱いで親子でのびのび本を読めます。

 

「絵本の読み聞かせ」

 

私は、図書館の児童エリアに立ち寄ることが多々あります。

絵本を探すのが目的です。

子供たちの邪魔にならないように身を小さくして見ていくのですが、大の大人が片膝ついて、次々に棚から絵本を引き出して読んでいる姿は、異質に感じられたかもしれません。

 

そんな視線を跳ね返し絵本を選ぶのは、ボランティアで「絵本の読み聞かせ」をしていたからです。

幼児から高齢者まで対象は広かったのですが、小学校の学童さんへの読み聞かせは、特に楽しいものでした。

 

「こわいのがいい」

 

「次は、何を読もうか。みんなはどんな本が好きなの。」

「こわいのがいい。」元気な子が、一番に声を上げました。

「うん、こわいの。こわいのがいい。」ほかの子も続きます。

「えぇっ。こわいのだと、夜トイレに行けなくなっちゃうよ。」

「へん、赤ちゃんじゃあるまいし。トイレに行けなくなるはずないじゃん。」

「じゃあ、こわいやつ、持ってくるね。」

 

次の回、絵本を隠して多目的ルームに入りました。

私の番が近づくと、背中に隠した本を、子供たちは目ざとく見つけました。

「あっ、背中に持っているぞ。」

一斉に子供たちは動き出します。腰が引けて後ろに下がる子、逆に前列に出てくる子、中には職員のお姉さんの後ろにしがみつく子もいます。

こんなリアクションをしてくれるなんて・・。

 

皆さん、今時の怖い絵本って知っていますか。

書店で開かれた「夏の怖い本コーナー」を見たのですが、絵も、内容も凄いんです。

とても、学童さん相手に読み聞かせできるレベルの本ではありません。

夜、天井を見ながら思い出しただけで、ぞわっとするレベルです。

 

「ゆきおんな」

「ゆきおんな」 「こわいのがいい」

 

「ゆきおんな」を選びました。

いもとようこさんの文と絵です。

子供たちに、絵が醸し出す優しさが、ふんわりと伝わるように。

 

「むかし、きたぐにの ちいさなむらに もきちと みのきちという、りょうしの おやこが すんでいました。」

学童さんたちの視線が集中します。

「ぜんぜんこわくねえや」口ではそういいながら、目だけは本からそらすことはありません。

 

「入っちゃダメ」

 

冬山での猟の最中、吹雪に閉じ込められた二人は、やっとの思いで小屋にたどり着きます。

子供たちは、一斉に声を上げました。

「入っちゃダメ。入っちゃダメ」

予期せぬ言葉に、こちらが驚きました。

子供たちは、小屋に入った後の展開を知っていました。

一緒に雪山の中に居て、これから起きる猟師の悲劇を阻もうとしているのです。

するりと絵本の中に入り込める、柔らかな感性。

胸が熱くなりました。

 

「ありがとうございました」

 

読み聞かせを楽しみにしている学童さんの中に、大人びた少女がいました。

素直に感想を言ってくれる子です。

九州弁で書き綴られた絵本では、「言葉がよく分らなかった。」

絵を描く題材の絵本では「よく見て描くことは、大事だと思った。」というように。

 

そんな子が「ゆきおんな」を読んだ後に、私の前にちょこんと座りました。

お茶の稽古の時のように、両指をそろえて「今日は、ありがとうございました。」

絵本の世界から現実に引き戻された私も、お辞儀を返しました。

「いえいえ、こちらこそ、ありがとうございました。」

 

少女の透明感のあるお辞儀。

えっ、もしかして、ゆきおんなの娘さん。