【ドラマブログPart2】「一石橋迷子しらせ石碑」&「京橋大根河岸青物市場跡」の巻
新シリーズ「ドラマブログ」のPART2でございます。
PART1では、明石町にある蘭学事始めの碑をリアルに紹介したく『解体新書』の誕生風景をドラマ風に紹介しました。
今回は、一石橋にある「迷子しらせ石碑(まいごしらせせきひ)」、そして京橋近くにある「大根河岸(だいこがし)青物市場跡」です。
ついでに「大根河岸」で扱っていたであろう江戸野菜「小松菜」にも焦点をあて、ドラマ化しました。
ではお楽しみください。なんだかんだで長文です。ご了承おあそび申しあれ
TOPの写真は一石橋にある「迷子しらせ石碑」を三方向から撮影して一枚にしています。
※なお前回同様執筆の一部に生成AIを利用しております。
小説『石標が結んだ親子の絆』
天保十三年の秋。
小松川村の朝は、まだ空が白み始める前から動き出す。おみつは畑に立ち、朝露に濡れた小松菜を摘み取っていた。葉は艶やかな緑色を帯び、土の香りとともに秋の冷気を含んでいる。
「今年は出来がいいな。」
夫の徳蔵が笑った。
「江戸っ子にも喜ばれるだろうよ。」
二人は地主から土地を借りて耕す小作人だった。暮らしは決して楽ではない。しかし丹精込めて育てた小松菜だけは自慢だった。
九歳になる息子の新吉も束ねた菜を縄でくくる手伝いをしている。
「今日は江戸へ行けるんだろ。」
「ああ。大根河岸までだ。」
新吉は目を輝かせた。
彼にとって江戸は憧れの世界だった。収穫した小松菜は小舟に積み込まれた。
中川から「小名木川」を抜け、大小の荷船がひしめく水路を進みながら、一家は江戸の中心へ向かう。
やがて京橋近くの大根河岸が見えてきた。岸には野菜を積んだ船が何十艘も並び、威勢のよい声が飛び交っている。
※AIによるイメージ図(時代考証してません)
大根、蕪、葱、牛蒡、そして小松菜。
江戸中の青物がこの場所へ集まっていた。
昼が近づくにつれ、大根河岸は熱気に包まれた。
商人たちが値を競い、荷運び人が駆け回る。
徳蔵は問屋との商談に忙しく、おみつも売り先とのやり取りに追われていた。
その隙だった。
河岸の向こうから拍子木の音が聞こえた。
カン、カン、カン。
「猿回しだ!」
新吉の心が躍る。少し見るだけ。
そう思って人垣の隙間へ入り込んだ。
だが江戸の人波は川の流れよりも激しかった。誰かに押される。誰かの荷にぶつかる。気づけば周囲は知らない顔ばかり。振り返っても父も母も見えない。
「母ちゃん?」
「父ちゃん!」
返事はない。
新吉は急に怖くなった。
そのころ、おみつは荷を数え終えて振り向いた。いるはずの場所に新吉がいない。
「徳蔵!」夫が顔を上げる。
「新吉がいない!」
二人は青ざめた。河岸中を探した。市場を駆け回った。船着場も見た。見世物小屋も探した。
だが見つからない。時間だけが過ぎていく。昼が終わり、西日が差し始めた。
「もし川へ落ちていたら……」
徳蔵の言葉に、おみつの身体が震えた。京橋川には数え切れぬ船が行き交う。人さらいの噂も耳にしたことがある。
悪い想像ばかりが頭をよぎった。
「神様……どうか……」
おみつの目から涙があふれた。
新吉は泣きながら歩いていた。気づけば日本橋近くまで来ていた。空は赤く染まり始めている。どこへ行けばいいのか分からない。
腹も減った。心細くて足が動かない。とうとう橋のたもとに座り込み、声を上げて泣き始めた。
そこへ岡っ引きがやって来た。
「どうした坊主。」
新吉はしゃくり上げながら答えた。
「小松川から来たんだ……母ちゃんとはぐれた……」
岡っ引きは膝を折り、優しく頭を撫でた。
「なら安心しろ。いい場所がある。」
連れて行かれた先は、一石橋だった。日本橋川に架かる橋のたもとには石柱が立っている。
正面に「満よひ子の志るべ」、左面に「たつぬる方」、右側に「志らす類方」と刻まれている。
江戸の迷子探しの拠点だった。
人々はここに張り紙や木札を残し、迷子の情報を交換していたのである。
「ここなら親も来る。」岡っ引きは言った。
「江戸中の人が知っている。」
新吉は不安そうに周囲を見回した。
橋のまわりには自分のような迷子もいた。荷を置いて知らせを書いている商人もいる。皆が誰かを探していた。
一方のおみつたちは、茶屋の主人から一石橋のことを教えられた。日が沈み、提灯が灯るころ。夫婦は最後の望みをかけて橋へ急いだ。
「どうかいておくれ……」
おみつは息を切らしながら走る。
足袋は破れ、着物の裾は泥だらけだった。それでも止まれない。新吉が待っているかもしれない。
いや、待っていてほしい。
橋が見えた。提灯の灯が揺れている。人々の話し声が聞こえる。
おみつは叫んだ!
「小松川の新吉を知りませんか!」
その声が夜の橋に響いた。すると岡っ引きが振り向いた。
「小松川だと?」
その隣で小さな影が立ち上がる。
「母ちゃん!」
おみつの胸が詰まった。間違えるはずがない。
毎日聞いている息子の声だった。
「新吉!」
彼女は駆け出した。新吉も走る。橋の真ん中で二人は抱き合った。
「ごめんよ……母ちゃん……」
「いいんだよ……生きていてくれて……」
涙が止まらなかった。徳蔵も無言で二人を抱き締めた。周囲から安堵の声が上がる。見知らぬ町人たちまでもが笑顔になっていた。
「よかったな。」
「これで安心だ。」
誰かがそう言った。
帰りの舟。月が小名木川の川面を銀色に照らしていた。
新吉は母の膝に頭を乗せて眠っている。
おみつはその寝顔を見つめながら思った。
江戸は恐ろしい。
人に飲み込まれるほど大きな町だ。だが同時に、人の情けで支えられた町でもある。もし一石橋がなければ。
もし岡っ引きや茶屋の主人が助けてくれなければ。
今ごろ親子は離れ離れだっただろう。
遠ざかる江戸の灯を見ながら、おみつは静かに手を合わせた。一石橋の石標は、その夜も変わらず立ち続けていた。迷う者を導き、会いたいと願う人々の心を結ぶために。
それは石でできた標でありながら、江戸の人情そのものだった。
おわり
小松川〜大根河岸紀行
『石標が結んだ親子の絆』のドラマはこれまで。
AIに、ドラマティックに、とプロンプトしたら、なかなかリアリティがあるドラマに仕上がりました。
大河ドラマ風に、現代の景色を紹介します。
まずは、新吉の地元「小松川」と日本橋エリアの位置関係をマップにプロットしました。
移動の際に通った「小名木川(おなぎがわ)」は、徳川家康が江戸入府直後(1590年頃)に「行徳の塩」を安全かつ迅速に江戸へ運ぶため、代官・小名木四郎兵衛に命じて始めた運河建設事業。
江戸湾の浅瀬・砂州による危険な海路を避け、隅田川〜旧中川を一直線で結ぶ人工水路を造ることで、塩の輸送路を劇的に改善しました。
この「塩の道」が後に江戸の物流大動脈へと発展します。
中央区内の運河は埋められたり、高速道路に転用されて、ほとんど残されてませんが、こちらは健在です。
小松菜の発祥の地
執筆前に江戸川区へ、ぐるり東京江戸散歩してきました。
「小松菜」は東京都江戸川区の「小松川」付近が発祥の地とされています。
写真の「小松菜産土神(こまつな・うぶすながみ)の碑」は、江戸川区中央の「新小岩間々井香取神社」の境内にある、小松菜の由来を伝える石碑です。
伝承では、1719年(享保4年)、徳川8代将軍・徳川吉宗がこの地域へ鷹狩りに来た際、間々井香取神社が食事をする場所(御膳所)になりました。
ところが、将軍に出す料理の材料が十分になく、神主の「亀井和泉守永範」が、地元で採れた青菜を餅のすまし汁に添えて献上したと伝えられています。
吉宗はこの青菜を気に入り、
「この菜は何という名前か」
と尋ねました。
特に名前がなかったため、小松川の地名にちなみ「小松菜」と呼ぶようにした、というのが、現在伝わる小松菜の名前の由来です。江戸川区もこの説を紹介しています。
参考 「産土神」って何?
「産土神」は「うぶすながみ」と読みます。その土地に生まれたもの・その土地を守る神、という意味合い。つまり「小松菜産土神」は、「小松菜が生まれた土地を守る神様」ということです。
新小岩間々井香取神社
〒132-0021
東京都江戸川区中央4丁目5-23
小松菜屋敷
隣に「小松菜屋敷」もあります。
小松菜屋敷は、神主・亀井和泉守の屋敷跡です。
たまたま遭遇した小松菜のハウス栽培
青々として美味しそう。
小名木川(おなぎがわ)が隅田川に接続する部分
さて、まもなく中央区です。とは言っても、小名木川を船で移動したわけではございません。
陸路を自転車で移動してます。こちらの写真は江東区側の萬年橋から撮影してます。
左手の隅田川には清洲橋が架かってます。
清洲橋は、1928年竣工の吊橋で、関東大震災後の帝都復興事業を象徴する名橋。ドイツ・ケルンの大吊橋をモデルにした優美なデザインと、当時の最先端技術を結集した構造が評価され、2007年に国の重要文化財に指定されています。
と、余計な事書くから長くなる。そろそろ観光検定に向けて知識を呼び起こさないと、と自分のため。
大根河岸青物市場跡
このあたりにAIに作らせた挿絵のような青物市場があったのであろう。
大根河岸と一石橋の位置
直線距離で、約1キロ。意外に近い。
という事で、今回もりもりになりました。
中央区観光協会特派員ブログではありますが、現在の江戸川区や江東区の事も波及しました。
江戸東京は当然中央区だけで成り立っていたわけではなく、周辺とのリレーションがあります。中央区の事だけでなく、広く江戸東京のことに波及することで、深みのある記事になるかなと思ってます。
また、「江戸野菜を食べよう委員会」の委員長として(嘘です)今回は小松菜を紹介しましたが、他にも江戸野菜たくさんあります。今後も中央区に絡めてこの場で紹介しようかなと、思いましたとさ。
おしまい
オフィシャル