小江戸板橋

「森孫右衛門の実像を探る」研究発表会に参加しました

 

11月9日、日曜日

中央区内各所で文化イベントが開催される「まるごとミュージアム2025」の当日です。

めぐる 楽しむ 好きになる。

 

 「森孫右衛門の実像を探る」研究発表会に参加しました

 

今日、私が向かうのは、人形町1‐1‐17の日本橋社会教育会館

日本橋小学校や日本橋幼稚園、日本橋図書館、ホールなどが併設された複合施設です。

大きな時計が目印の、重厚なファサードを構える建物

あいにくの雨に、壁面はしっとりと濡れていました。

 

 「森孫右衛門の実像を探る」研究発表会に参加しました

 

目的は、東京和文化協会の「森孫右衛門の実像を探る」と題した研究発表会です。

「舞踊と和楽器で辿る中央区史2025」の関連企画

7月13日に同会館ホールで行われた~歌謡浪曲舞踊「森孫右衛門」~の公演に参加しました。

歌謡浪曲の華やかな舞台を楽しんだ後に、登場人物である「謎多き森孫右衛門の実像に迫る歴史発見プログラム」との言葉にひきつけられて申し込んだのです。

 

研究発表会は、7月の公演動画の上映から始まりました。

そうそう、このお話でした。

歌謡浪曲の新作を久しぶりに聞きました。

舞踊とあるように、浴衣姿のお姉さんたちが、話の進行に華やかな手踊りで合わせていくのが新鮮でした。

 

 「森孫右衛門の実像を探る」研究発表会に参加しました

※ 佃一丁目に鎮座する森稲荷神社。森家の屋敷神として祀られていました。

 

講師は前段で、「歌謡浪曲は芸能です」と切り出します。

本能寺の変、神君伊賀越え、佃島の造成など、徳川家康公と森孫右衛門をはじめとする佃漁民とが関わる伝承を基に創作されています。

芸能ですから、物語性に重きを置くのは当たり前の事です。

ドキドキ、はらはら、ほっこり、キュンの要素なくして、物語は面白くなりません。

 

そんな芸能なのですが、森孫右衛門について新たに明らかになった歴史資料を踏まえ、通説史実と伝承を分けながら解説されました。

わあ、すごく真面目です。

 

5つの検証ポイント

 

・本能寺の変で家康を助けた?

・家康江戸入府と同時に呼び寄せられた?

・孫右衛門が日本橋魚河岸を開設した?

・孫右衛門が佃島を開拓した?

・森孫右衛門伝説はなぜ生まれた?

 

森孫右衛門は実在した人物であり、中央区の各所にその事績、功績を見出すことができます。

一方で伝承の域を出ない事柄もあります。

これら5つの検証は、史実と伝承を分ける鍵となりました。

 

伝承が生まれた背景

 

講師は解説していきます。

佃の漁民たちは、江戸に移住し、江戸近辺の漁業権(網引御免)を得ますが、他地域の漁民と争うときに、その特権の正当性を説くことが必要不可欠でした。

「苦難に際した家康公をお救いした」という大義名分が説かれていくのです。

伝承は、その時代や人物を活き活きと躍動させる力をも持っているのです。

 

講義を聴きながら思ったこと。創作の力

 

歴史を正しく伝えることは難しい。

教科書に記載された内容であっても、その後の研究、歴史的文献や遺跡の発掘などの新事実の出現により改定されることは多々あります。

事象そのものが発生した当時でさえ、立場・見方によって評価は大きく変わります。

戦いに勝利した者が史実を固めていく様子は、現代においてもたやすく見出すことができます。

 

創作、芸能として伝わった作品が、歴史的研究では繋がらなかった溝を、滑らかに埋めていきます。

芸能に込められた思いが、当時の空気感を明らかに表現していることもあるのです。

書き残せなかった姿を、口述で伝えることは、庶民の知恵。

時代設定を変えて、時の権力者をこき下ろすことなどは、朝飯前の仕事です。

聴衆は隠された姿を上手に見つけ出し、喝采を送ります。

「講釈師 見てきたような 嘘を言い」

そう、見てきたような嘘を、語る方はさもありなんと語り、聞く方はそれを承知で楽しむのです。

 

 「森孫右衛門の実像を探る」研究発表会に参加しました

 

研究発表会は講習室から外に出て、日本橋魚市場発祥地碑まで足を伸ばしました。

森孫右衛門の一族の活動が、日本橋魚河岸の成立に大きくかかわったことは、間違いありません。

隅田川河口という佃の立地は、江戸城防備の観点からも重要な位置を占めます。

新たな視点を得て、改めて日本橋に立つと、先人たちの息遣いが聞こえてくるような気持になりました。

 

 「森孫右衛門の実像を探る」研究発表会に参加しました

 

時代考証は、テレビや映画、演劇などで扱われる時代に合わせた衣装、道具、風俗、作法などが、歴史的に適当に表現されているか整合性を見る作業です。

 

それでも私の妻などは、大河ドラマの主人公がそのまま歴史上の人物と思っているふしがあります。

源義経はタッキー(滝沢英明)、坂本龍馬は福山雅治、渋沢栄一は吉沢亮というように。

創作の世界にどっぷりと浸れる人の方が、時代物をより楽しめるものなのかもしれません。

 

脚本の力、役者の力、スタッフ皆の力。

そして、観る人の力も。