入船に御神輿が蘇って帰ってきた

入船一丁目町会鉄砲洲稲荷神社の氏子で京橋五の部連合町会に属します。

鉄砲洲稲荷神社の祭礼時に御神輿が担がれますが、現在の入船一丁目の御神輿は当初入舟町3町会の合同で持っていた御神輿でした。

この御神輿の製作年は不詳です。御神輿の内部にも製作年の明記は無かったそうです。

御神輿の作人は行徳関ヶ島の後藤直光

形状は屋根延神社型神輿漆塗品。屋根延神社型とは神社の屋根を模した形のこと。

一番底辺の部分の台輪寸法は2寸。約60cm。

後藤神輿店は江戸時代より堂宮彫刻を生業にしていた家系です。この御神輿の彫刻は後藤直光らしい意匠で素晴らしいと今回修理をお願いした宮本卯之助商店に褒めて頂きました。

祭礼時に担ぎ手が多過ぎて、入舟町三丁目町会は昭和29年に、入舟町二丁目町会は昭和31年に各々御神輿を建造します。結果的に入舟町一丁目町会がこの伝統の御神輿を引き継ぎました。

前回、入船一丁目町会が御神輿を修理に出したのは昭和52年。金具類を入一の文字入りに新しく変えたりしました。修理した業者は宮本卯之助商店ではありません。今回は大々的な修理をお願いしました。

 入船に御神輿が蘇って帰ってきた

ここからの写真は本卯之助商店が修理の工程を説明するために記録してくれたものです。

宮本卯之助商店は創業文久元年の浅草に店を構える太鼓・神輿・祭礼具の製造販売の老舗です。

金具類を全て取り外した状態の屋根です。

本漆 梨地仕上げ の屋根です。梨地とは表面に微細な凹凸をつけて梨の皮のようなざらざらした艶消しの質感をだしたものです。その上に漆加工をします。

写真の状態でも漆の剥がれや割れが確認出来ます。漆の修理はまず漆を剥がして木を呼吸させて休ませるそうです。この屋根は剥離作業を行ったところ漆が二重になっていました。木地が元気な状態を確認できれば上塗りもありえるそうですが、前回の修理時剥がさずに漆を上塗りしたのではないかと説明を受けました。

漆塗りの工程では乾燥させる時、むろには漆専門の担当者しか入れない慎重な作業だそうです。

屋根裏の金具類は緑青などのサビは確認できなかったそうです。保管状況がよかったのでしょうか。

 入船に御神輿が蘇って帰ってきた

天井のてっぺんの部分です。

この御神輿のてっぺんには鳳凰がいます。二本の足のところの棒を差し込んで固定する構造です。大きく横や前後に揺れるため穴が広がり、年数がたつと緩くなってきます。

 入船に御神輿が蘇って帰ってきた

天井を外した状態です。天井の揺れで上の方の棒は欠けている部分もあります。天井部を支える四本柱が見えます。先端部が後工程で削られて細くなっています。天井にサイズを合わせたと思われます。今後の使用により耐えるため細い部分を補強してくれました。

御神輿胴体は一体型になっています。行徳型神輿の特徴だそうです。芯棒そのものは今後の使用に耐えられそうでした。芯棒は今はボルトで止める方法もあるが昔ながらの楔で止めたそうです。

四本柱の周りも胴体内部も漆塗り加工がされています。彫刻で隠れる裏部分も黒い漆が塗られています。何故漆を塗っているのか、理由は分からず不思議だそうです。

芯棒四本柱の締め直し修理をしてくれました。

御神輿をもむのは、ゆらすことで神様が喜ぶからだと言う人もいます。今後しばらくは耐えてくれるでしょう。

 入船に御神輿が蘇って帰ってきた

御神輿の彫刻を外してこれから修理にかかる前の彫刻の一部です。

材質はケヤキです。珍しいそうです。堅い木なので長持ちしますが、加工が難しいようです。

各々の彫刻を丁寧に点検し洗ってくれました。修理すべきところは直してくれています。龍の目が取れていた彫刻も目が入っていました。

この御神輿の彫刻は

狛犬は阿吽の獅子 上長押は四鳥 唐戸脇は鶴松 柱隠は昇降龍 唐戸は牡丹 下長押は千鳥波 台輪彫刻は四神

そして堂羽目は ”狐の嫁入り” です。

 

 入船に御神輿が蘇って帰ってきた

上段が御神輿の左側面で、狐のお嫁さんがいます。下段の右側面はお嫁さんの乗る輿を担いだ狐たちの彫刻です。

宮本卯之助商店によれば ”狐の嫁入り” は大変珍しいもので、俗に言う天気雨を意味するので、雨乞いを連想しているのではと説明されました。

四本柱の周りでも触れましたが、細部に何故か見えない部分までも漆塗りがされた御神輿です。水かけ祭りでも無く、虫除けの加工の意味でもないので不思議と言われました。

桜川公園八丁堀四東町会入船一丁目町会主催で桜川公園お花見親睦会が行われ、当日は入船一丁目町会の詰所にて御神輿を展示しました。その時諸先輩や仲間内と会話して思い当たったことがあります。以前鉄砲洲稲荷神社の祭礼は5月21日ころだったこと。御神輿は昭和初期のものと思われ、発注した時代の暦は旧暦なのでその時期は梅雨にあたり、雨乞いの意味で ”狐の嫁入り” を依頼したのではないか。御神輿は神様なので雨乞いしたら雨が降るので水に濡れる想定で漆を塗るよう依頼したのではと話しました。個人的には納得しました。

 入船に御神輿が蘇って帰ってきた

台輪の中央部にも彫刻があります。

四神と呼ばれる四種の聖獣たちの彫刻です。

朱雀 方角は南、季節は夏です。 他に東、春の青龍 西、秋の白虎 北、冬の玄武 で四体です。

御神輿の正面が朱雀(南)なのは、御神輿を南向きに据えることが神事における方位の尊厳で、南は陽の気が満ちた吉祥の方角の意味があるからだそうです。

台輪の四隅は三味線型と言って少し丸みのある膨らみの鋳型です。

 入船に御神輿が蘇って帰ってきた

御神輿の桝組です。ここだけで4~5百パーツあるそうです。

分解、清掃、修復後に組み上げますが、ボンドや釘無しで組み合わせるそうです。非常に時間がかかる大変な仕事です。錺金具は鍍金加工を施します。

 

金箔の部分には金箔下地漆を塗ってから金箔を押すそうです。少しの凸凹でもあれば金箔が浮いてしまい、外から見てわかるそうです。物凄く手間がかかります。また今年になってからだと金箔の価格が高くなり過ぎたため、まだ昨年中の作業でよかったと言っていました。

 入船に御神輿が蘇って帰ってきた

天井に位置する鳳凰です。

鳳凰の足の指先が下を向き、下方に曲がっています。通常では無い、この御神輿の特徴です。

修理前はかなり傷んでいました。綺麗になって見違えました。

四隅の蕨手にある小鳥も直してくれました。ツバメやハトとも言うそうです。1羽の小鳥の足は折れていましたが直っていました。この小鳥は翼が2枚になっている珍しい仕様です。

鈴はクロームメッキにて新調してくれました。銀メッキより明るく見えます。

一部分が切れて短くなっていたりヨレヨレになっていた飾り紐も新しくなりました。

宮本卯之助商店さんには大変お世話になりました。沢山の職人さんの手による丁寧な仕事、何度も足を運んでくださり、説明していただいた営業部の方、本当にありがとうございました。

 入船に御神輿が蘇って帰ってきた

3月29日から4月29日まで、Premium Apart MONday 銀座EAST にて御神輿を展示しています。

中央区入船1-9-12 の一階ロビーです。

1階ロビー はガラス貼りで外からも見えますが、声を掛ければロビー内に入れます。

急造の名板は半紙に筆で書いてもらいました。

昭和初期に造られたと思われる、一種の文化財が蘇った姿に接することができます。

今年の鉄砲洲稲荷神社の例大祭は町内神輿は出ませんが、入船一丁目町会は5月4日10時発御で一丁目町内から鉄砲洲稲荷神社に宮入りしてお披露目をします。

ぜひご覧ください。