山王祭と江戸っ子の美学
初夏の風とともに、日本橋・京橋エリアがにわかに活気づく季節がやってきました。江戸三大祭りの一つ、そして徳川将軍も上覧した天下祭として名高い「山王祭」の開幕です。長い歴史の重みを肌で感じると、なんだか背筋がすっと伸びるような心地がいたします。
中央区の町々が山王権現の清らかな御神徳に包まれるこの期間。美しい装束を纏った「神幸祭」の行列が現代の高層ビル群を練り歩く姿は、まるで時空を超えて蘇った鮮やかな江戸絵巻のようです。
さて、お祭り気分に沸くこの時期、人形町の路地を歩くと、ふと「葛籠(つづら)」の存在を思い出します。かつて江戸のどこの家庭にもあった葛籠は、今や貴重な伝統工芸品となりましたが、現在でも「祭りのために」と新調されたり、修繕に出されたりしながら大切な収納箱として代々受け継がれているのではないでしょうか。
お祭りの朝、漆塗りのつづらの蓋を開け、中に丁寧に畳まれていた町会の法被(はっぴ)を取り出す……。その瞬間に、担ぎ手たちの心にはカチッと「祭りのスイッチ」が入るのでしょうね。想像するだけで胸が熱くなります。
つづらには、神社の眷属(神使)の意匠や、自身の家紋をあしらわれていたりします。誰に見せるわけでもない収納箱の細部にまで、己の誇りや神様への敬意を込める。これこそが、見えないところにこだわる「江戸っ子の美学」そのものではないでしょうか。
昔から変わらぬ技法で作られたつづらが、現代のお祭りの伝統を「中から支えている」――そう思うと、お祭りがより一層深く、愛おしいものに感じられませんか。
山王祭の行列を見かけたら、ぜひその美しい装飾や衣装にも注目してみてください。それはきっと、つづらの中で大切に守られてきた、歴史そのものなのです。
さあ、中央区の熱い夏が始まります。
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