三越前駅で「アール・デコ」を鑑賞する
どうも、苔です。
皆さんは三越前駅に関するこんな話を聞いたことはありませんか?
「駅名を三越前駅とする代わりに三越が建設費をすべて負担した」
実はこの話、明確な証拠が残っておらず「何らかの約束はあったようだが真偽は不明」のようで、都市伝説のように今でも語り継がれているんです。
しかし、駅の改札口と三越地下をつなぐ連絡通路については三越が費用を負担して作ったことが資料に残っています。
連絡通路にはいくつか駅建設当時の名残りがありますが、今回ご紹介したいものはいつもより少し目線を上げると見えてきます。
連絡通路に残されたアール・デコ装飾
銀座線の三越方面改札口を出たところ、少し上を見上げてみるとなにやら古びた金属の装飾が見えます。
実はこの装飾、三越前駅が開業した昭和7年(1932年)当時に、照明の装飾として設置されたものがそのまま残っているんです。
直線と曲線の組み合わせの構成が特徴的ですが、この幾何学図形を記号的に配置したデザインは「アール・デコ(Art Déco)」と呼ばれる様式として知られます。
アール・デコは1910年から1930年にかけて欧米で流行し、それまでにないちょっと無機質な感じがクールに受け取られたようです。
日本には昭和初期に持ち込まれ、現在では東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)、伊勢丹新宿本店、神奈川県庁舎などが代表的なアール・デコ建築として残っています。
半蔵門線に向かう連絡通路(夢ロード)手前に並ぶ10本の柱の最上部にも、似たような素材の装飾が見られます。
交互に組まれた三角形の中に曲線とひし形をあしらった幾何学模様と、花の装飾が豪華さを演出します。
三越前駅の連絡通路に残る当時のアール・デコ装飾はこの2種類しか見つかりませんでした。
というのも、これ以外の装飾品の多くは、太平洋戦争時の金属供出により回収されてしまったというのです。
三越の金属供出といえば、本館正面玄関のライオン像や商業施設として日本初のエスカレーターのエピソードが有名ですが、豪華絢爛な金属装飾品もその対象でした。
装飾デザイナーの「ルネ・プルー」にも注目
▲復元されたオリエント急行の貨車(Wikimedia Commonsより)
三越のアール・デコ装飾品をデザインしたのは、フランス装飾界の第一人者であった「ルネ・プルー(René Prou)」というフランス人。
彼は豪華客船や寝台特急といった、豪華さを追求したインテリアデザインを得意としており、あの有名な「オリエント急行」の内装デザインも担当しています。
三越はわざわざフランスに社員2名を派遣し、円滑なコミュニケーションができるようにしたといいます。
プルーの三越での最大の仕事は特別食堂と休憩室のインテリアデザイン。ドアや壁の装飾にとどまらず、換気口の金属装飾に至るまでそのほとんどをオリジナルデザインで作成しています。
現在でも三越7階の特別食堂には金属供出を免れた当時のアール・デコ装飾の一部が残っています。
三越前駅は見どころ盛りだくさん!
今回は三越前駅の中でもあまり注目されない部分をご紹介しましたが、他にも多くの見どころがあるのがこの駅のステキなところ。
特派員ブログでも様々な視点から掘り下げられていますので、是非みなさんもこの駅の虜になっていただけると嬉しいです!
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