浜ちゃん

「中央区とのご縁:べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜⑧」
~熈代勝覧(きだいしょうらん):須原屋市兵衛(演:里見浩太朗)~

「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」のキーパーソンである須原屋市兵衛の本屋の当時の姿を、三越前駅の地下コンコースにある「熈代勝覧」で見ることができます。

“べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜” 
第16話「さらば源内、見立は蓬莱(ほうらい)」、
第19話「鱗の置き土産」、
第23話「我こそは江戸一利者なり」

420()放映の第16話では、平賀源内(演:安田顕)が亡くなった後、須原屋市兵衛(すわらやいちべえ)(演:里見浩太朗)が蔦重に対して、「源内先生の本をずっと出し続けることで、これからも、源内先生を生き続けさせる」という内容を語っていました。

518()放映の第19話では、須原屋市兵衛が、店を畳むことになった鱗形屋孫兵衛(うろこがたやまごべえ)(演:片岡愛之助)に対して、これまで蔦重が鱗形屋孫兵衛にしてきた恩に報いるために、何か「置き土産」はないのか、と問うシーンがありました。

更には、615()放映の第23話では、須原屋市兵衛が蔦重に対して、平賀源内が「耕書堂」に込めた思いも語りながら日本橋に進出することを強く勧め、蔦重は日本橋に進出することを固く決意しました。その際、須原屋市兵衛の背後には、地球儀や望遠鏡といった舶来品が飾ってあり、先進的な面が伺えましたね。

須原屋市兵衛(演:里見浩太朗)

須原屋市兵衛(演:里見浩太朗) 「中央区とのご縁:べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜⑧」
~熈代勝覧(きだいしょうらん):須原屋市兵衛(演:里見浩太朗)~

ドラマの中で、須原屋市兵衛は蔦重が困った時の知恵袋として、また蔦重の躍進を支える人物として描かれています。史実の須原屋市兵衛はどんな人物だったのでしょうか。

蔦重のような地本問屋とは異なり、須原屋市兵衛は書物問屋でした。一言でいうと、黄表紙や浮世絵などを扱うのが「地本問屋」で、学術などの専門書を扱うのが「書物問屋」です。江戸随一の書物問屋である須原屋茂兵衛からのれん分けされた店がいくつかあり、そのうちの一つが「申椒堂(しんしょうどう)」と号した須原屋市兵衛の店です。

須原屋市兵衛は、様々な書物を出版していますが、かなり攻めた内容の出版物も出しています。その中で最も有名なのが、「解体新書」でしょう。ドラマの第15話でも、解体新書の筆者の一人である「杉田玄白」(演:山中 )が須原屋を訪れるシーンが描かれていましたね。

須原屋市兵衛は、「解体新書」の刊行を引き受けるに当たり大変な決心を要しました。過去には、明和2年(1765年)に、後藤梨春(ごとうりしゅん)の「紅毛談(おらんだばなし)」が絶版を命ぜられた前例がありました。この本は、オランダ人より聞き取ったオランダの風俗・産物・薬法などを紹介したもので、エレキテルをはじめて紹介したことでも知られています。須原屋市兵衛は、「絶版処罰」の危険を覚悟していたと言われています。

須原屋市兵衛は、「解体新書」の発行に際して慎重を期しました。まず、安永2年(1773年)に、「解体新書」の内容見本である「解体約図」を刊行しました。これについては、どこからも注意がなかったことから、安永3年(1774年)に印刷完了した「解体新書」を、将軍や老中へ献上し、その反応をうかがいました。問題ないと判断されたことから、安永4年(1775年)に、江戸書物問屋仲間の行司に発行許可願いを出し了解を得て、市中に流通することになりました。なお、安永4年(1775年)は、瀬川が鳥山検校に身請けされた年です(↓)。

https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5907

また、以下のブログ(↓)でも紹介させて頂きましたが、須原屋市兵衛は、「物類品隲(ぶつるいひんしつ)」などの平賀源内の著作も刊行しています。

https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5861

更には、のちに江戸文人界の重鎮となる若き大田南畝(おおたなんぽ)(演:桐谷健太)の才能を認め、彼の出世作「寝惚先生文集」(ねぼけせんせいぶんしゅう)を世に出したのもこの須原屋市兵衛でした。第20話「寝惚(ぼ)けて候」でも、蔦重が大田南畝のことを「寝惚先生」と言っていましたね。第20話のエピソードは以下ブログ(↓)をご覧ください。

https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5987

当時の江戸知識人社会は、平賀源内・杉田玄白・大田南畝などを中心に縦横に交遊関係が成立しており、互いに刺激し合っていました。このような関係から生まれた学問成果を、出版という手段を通じて、世の中に送り込んでいく役割を須原屋市兵衛が果たしていたと言われています。

蔦重は地本問屋として、また、須原屋市兵衛は書物問屋として、ともに「進取の気性に富む」人物でしたので、意気投合したとしても不思議ではありませんね。

写真は、「熈代勝覧」に描かれている「須原屋」で、店の暖簾には「須原屋」の文字が見えます。店は、現在の三越のあたりにありました。

熈代勝覧

熈代勝覧 「中央区とのご縁:べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜⑧」
~熈代勝覧(きだいしょうらん):須原屋市兵衛(演:里見浩太朗)~

「熈代勝覧」とは、「熈(かがや)ける御代(みよ)の勝(すぐ)れたる大江戸の景観を一覧する」という意味で、江戸時代にタイムスリップしたような感覚を味わうことができます。

須原屋市兵衛は、文化8年(1811)に没しました。「熈代勝覧」は、その6年前の文化2年(1805年)に描かれた作品で、江戸の日本橋から今川橋までの大通り(現在の中央通り)が俯瞰描写されています。江戸時代の町民文化を克明に描いたシーンが次々と展開されている絵巻物で、絵の上下に説明書きがありますので、須原屋市兵衛の本屋の場所を特定することができます。

「熈代勝覧」(写真)の赤マルが須原屋市兵衛の本屋で、その4軒となりの青マルの店が江戸随一の呉服商「三井越後屋」(現在の三越)です。上部に各々、「書物問屋(須原屋市兵衛)」、「呉服店(三井越後屋)」の説明書きがあります。また、三井越後屋の近くには、「十軒店」があります。須原屋市兵衛の本屋は、まさに江戸のど真ん中にあったことが分かります。

「十軒店」についは、以下のブログ(↓)をご覧ください。

https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5907

「熈代勝覧」は、三越前駅の地下コンコースの、三越本館と三越新館の間の壁面にあります。

【過去ブログ、参考資料・出典】

●過去ブログ:

      伝馬町牢屋敷:平賀源内 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5849

      浜離宮恩賜庭園:徳川将軍家の鷹狩場 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5856

      長崎屋、石町時の鐘:平賀源内 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5861

      日本橋 拾軒店:瀬川「青楼美人合姿鏡」https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5907

      日本橋瀬戸物町(福徳神社):鳥山検校 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5920

      狩野派:鳥山石燕、田沼意次、松平定信 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5987

      「耕書堂」(日本橋通油町):蔦屋重三郎 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5980

 

●参考資料・出典(ホームページ含む):

熈代勝覧、

歩いてわかる中央区ものしり百科、中央区、国立国会図書館、東京都立図書館、国立文化財機構、東京国立博物館、NHK、プレジデント、サライ、ステラNet、東京都公園協会、浜離宮恩賜庭園、東京都、郵政博物館、「十軒店跡」案内板、福徳神社、京都大学、二条城、メトロポリタン美術館、イチマス田源、蔦重通油町ギャラリー、十思スクエア蔦重ギャラリー

 

江戸の本屋さん(平凡社)、江戸の本屋(上、下)(中公新書)、

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