浜ちゃん

「中央区とのご縁:べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜⑬」
~小伝馬町・大伝馬町:宿屋飯盛(石川雅望)(演:「ピース」又吉直樹)~

26話では、お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さんが演じる「宿屋飯盛」が登場しました。宿屋飯盛は人生のほとんどを、現在の中央区の小伝馬町と新川に住んでいました。中央区の住人同士で、ご近所でもあり、蔦重と宿屋飯盛は親密な関係にありました。

“べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜” 第26話「三人の女」

76()放映の第26話で描かれていた米の話が、あまりにも今の状況に似ているため、ネット上では、「現在の日本を予言した?」などとの書き込みが見られます。具体的には、米の値段が去年の倍になる、問屋が値をつり上げている(?)、古米なら安く買える、徳川治貞(とくがわはるさだ)(演:高橋英樹)が「御公儀(ごこうぎ)の囲い米(かこいまい)を市中に放出すればよい」との主旨の発言をする(=小泉大臣が政府備蓄米の放出を指示する)、等々、確かにそっくりですね。

実は、これは、天明2年(1782年)から数年間に実際に起こった「天明の大飢饉(てんめいのだいききん)」をもとにしたストーリーです。田沼意次が農業中心から商業を重視した政治にシフトしたことにより、米の生産が減っていったことに加え、東北地方では冷害に見舞われて米の不作が続きました。更には、ドラマ第25話「灰の雨降る日本橋」で描かれていましたが、天明3年(1783年)7月には、現在の長野県と群馬県の境にある浅間山が大噴火し、火山灰が広範囲に流れ、作物の生産に大打撃を与えました。これにより、死者数が90万人以上にものぼり、江戸四大飢饉の一つといわれる、「天明の大飢饉」が起こったのです。

26話では、お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さん(現在、コンビ活動は休止中)が演じる宿屋飯盛(やどやのめしもり)が、大田南畝(おおたなんぽ)(狂名:四方赤良(よものあから))(演:桐谷健太)に連れられて、蔦重の前に現れました。又吉さんは2018年の「西郷(せご)どん」で徳川家定を演じて以来、7年ぶりの大河ドラマ出演となります。

蔦重は、米の値段を下げるために、挿絵の入った黄表紙の形態をとる狂歌集という出版物の発行を思いつきました。天明4年(1784年)正月に、「金平子供遊(きんぴらこどもあそび)」と「年始御礼帳(ねんしおんれいちょう)」が発行され、画工署名は「歌麿門人千代女(ちよじょ)」となっています。歌麿に女性門人がいるかのように戯れたもので、実際は歌麿本人が画を手がけたといわれています。

タイトル画像は、四方赤良作、歌麿門人千代女画の「年始御礼帳」(出典:東京大学総合図書館)です。右下に、「歌麿門人千代女画」の記載があります。ドラマの中で、当初、画工署名が「歌麿画」となっていたものが、「歌麿門人千代女画」に変更になっていました。ドラマ第2話では、唐丸(からまる)(幼少期の歌麿)が、蔦重に髪結いをした後で、蔦重のことを「男前」と言っていました。ドラマのタイトルにもなっていますが、歌麿(演:染谷将太)は、どのような思いでこの画工署名を書き直したのでしょうね。

宿屋飯盛(石川雅望)

宿屋飯盛(石川雅望) 「中央区とのご縁:べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜⑬」
~小伝馬町・大伝馬町:宿屋飯盛(石川雅望)(演:「ピース」又吉直樹)~

宿屋飯盛は、石川雅望(いしかわまさもち)の狂名です。彼は、蔦重と組んで、ドラマのオープニング映像にも登場する、喜多川歌麿画による狂歌絵本「画本虫撰(えほんむしえらみ)」(画像、出典:江戸東京博物館)をはじめ、多数の狂歌絵本を刊行します。今後、ドラマの中で登場機会が増えると思いますが、ネタばれになるので、これ以上触れないようにします。

その代わり、宿屋飯盛と中央区との深いご縁について、ご紹介させて頂きます。「浜ちゃん」が調べた限り、最も正確かつ詳細に記載されている書籍は、大正59月発行、(当時の)東京市日本橋区役所編纂の「日本橋区史 第四冊」で、その中で記載されている「石川雅望」についてご紹介させて頂きます。なお、現代用語と異なり当時の言葉で記載されているため、意訳している箇所があることはご容赦ください。

以下でご紹介させて頂きました通り、宿屋飯盛(石川雅望)は、一時期、やむを得ない事情により新宿区に移転したことがありましたが、それ以外は、生まれてから死ぬまで、現在の中央区の小伝馬町と新川に住んでおり、中央区とは、とてもご縁が深いのです。石川雅望は、蔦重の墓の碑文を記したと言われており、とても親密な関係でした。蔦重も、日本橋進出以降は、ずっと日本橋に住んでいたので、お互いにご近所だったことが、親密な関係になった理由の一つかもしれませんね。今後、ドラマの中で、二人の関係がどのように描かれていくのか、楽しみです。

 

「日本橋区史 第四冊」<石川雅望>

本名は糠屋七兵衛(ぬかやしちべえ)。字は士相、号は六樹園・五老・逆旅主人・蛾術斎。小伝馬町三丁目に住んでおり、宿屋を営んでいた。父は石川豊信(1)で、雅望は、その五男として、宝暦3年(1754年)115日に神田明神下で生まれた。幼少名は清之助といい、天明の末に七兵衛と改名した。

(1)石川豊信:浮世絵師、宿屋「糠谷(ぬかや)」を営む(黄色ハイライトは「浜ちゃん」追記、以下同)

初め、佐竹候(2)の御用達、津村綜庵(つむらそうあん)(3)の下で和学を修め、最も好んで源氏物語を読んでいた。

(2)佐竹候:久保田藩(秋田藩)の藩主

(3)津村綜庵:江戸時代中期の江戸の歌人、国学者

その後、狂歌の世界に入り、初めは小島温之(4)、後に大田蜀山(5)のもとで学んだ。

(4)小島温之:唐衣橘洲(からごろも きっしゅう)、大田南畝のライバル

(5)大田蜀山:大田南畝(おおたなんぽ)(演:桐谷健太)

狂歌師として宿屋飯盛(やどやのめしもり)と名のり、著述(ちょじゅつ)(6)吟詠(ぎんえい)(7)を行った。

(6)著述:書物を書き著わすこと

(7)吟詠:詩に節調をつけて歌うこと

文化年間、公事(8)のために出府した旅人に関連した事件で、罰せられ、所払い(9)となり、一時、内藤新宿(10)に転居して、五郎兵衛と名乗った。

(8)公事:訴訟・裁判

(9)所払い:居住の町村から追放し立ち入りを禁止する江戸時代の刑罰

(10)内藤新宿:現在の東京都新宿区新宿一丁目から新宿二丁目・三丁目の一帯

営んでいた宿屋は、息子の清澄に譲り、しばらく近隣に隠居していたが、その後、霊岸島本港町(11)にある孫の中村屋梅太郎のところに住み、紙類の商いをした。

  (11)現在の中央区新川

その名が世に広く知れることとなり、京都(12)より宗匠(13)の免許を賜った。

(12)京都:「天皇」と推測されます

(13)宗匠(そうしょう):文芸・技芸にすぐれ、師である人

「雅言集覧」(がげんしゅうらん)(14)や、「都の手ぶり」(15)などの著作は、人々の評判になり広く知れ渡った。

(14)雅言集覧:江戸時代に石川雅望が編纂した国語辞書

(15)都の手ぶり:https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100439168/1?ln=ja

天保元年324日に78歳で永眠。浅草黒船町正覚寺中哲相院に埋葬された。

小伝馬町・大伝馬町

小伝馬町・大伝馬町 「中央区とのご縁:べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜⑬」
~小伝馬町・大伝馬町:宿屋飯盛(石川雅望)(演:「ピース」又吉直樹)~

伝馬(テンマ)とは、幕府の公用をこなすために宿駅で馬を乗り継ぐための、その馬のことをいいます。江戸時代、伝馬町では「人馬の継立て」が行われており、幕府公用の旅行者のために馬を用意・提供し、人や荷物を次の宿まで輸送していました。

江戸府内にある、大伝馬町と南伝馬町では交代で道中の人馬の継立てを行い、小伝馬町は江戸府内の人馬の継立てを行っており、3つ合わせて「三伝馬町」と呼ばれていました。大伝馬町と小伝馬町は現在の小伝馬町駅近辺にあり、南伝馬町は京橋にありました。

大伝馬町の伝馬役を務めたのは馬込氏でした。馬込氏は、天正18年(1590)に徳川家康の江戸入府に際して、道中伝馬役を命ぜられ、その功により、後の呉服橋御門内の辺り(千代田区丸の内1丁目近辺)に位置した宝田村に土地を与えられました。

慶長11年(1606年)、江戸城拡張に伴い、宝田村の住人たちが大伝馬町に移転しました。大伝馬町の伝馬役を務めた馬込氏は、大伝馬町二丁目北側新道の西角に屋敷を構え、同町の名主役を兼帯して苗字帯刀を許されていました。馬込氏の当主の多くは、代々「勘解由(かけゆ)」の通称名を名乗っていました。馬込氏の邸内奥には、宝田村の鎮守が勧請され、その御神体である恵比寿神像は徳川家康から拝領したと伝えられています。

馬込氏邸内の恵比寿神像は、江戸時代後期頃から現在の「寶田恵比壽神社(たからだえびすじんじゃ)」にまつられています。かつては、正月20日と1020日に大伝馬町の大店で恵比寿講が盛大に行われ、その前日に市が開かれていました。この市が、現在101920日に開かれている「べったら市」につながっています。

現在、馬込氏の屋敷があった場所に、「馬込勘解由屋敷跡」の説明版があり、そのそばに、「寶田恵比壽神社」(画像)があります。

アクセス

アクセス 「中央区とのご縁:べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜⑬」
~小伝馬町・大伝馬町:宿屋飯盛(石川雅望)(演:「ピース」又吉直樹)~

耕書堂跡、伝馬町牢屋敷跡、石町時の鐘、については、以下のブログをご覧ください。

耕書堂跡: https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5980

伝馬町牢屋敷跡: https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5849

石町時の鐘: https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5861

【過去ブログ、参考資料・出典】

●過去ブログ:

      伝馬町牢屋敷:平賀源内 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5849

      浜離宮恩賜庭園:徳川将軍家の鷹狩場 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5856

      長崎屋、石町時の鐘:平賀源内 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5861

      日本橋 拾軒店:瀬川「青楼美人合姿鏡」https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5907

      日本橋瀬戸物町(福徳神社):鳥山検校 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5920

      狩野派:鳥山石燕、田沼意次、松平定信 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5987

      「耕書堂」(日本橋通油町):蔦屋重三郎 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5980

      熈代勝覧(きだいしょうらん):須原屋市兵衛(演:里見浩太朗) https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5996

      「べらぼうフェスティバル in 日本橋」(7/47/6)と「べらぼう 蔦屋重三郎 ゆかりの地めぐり(マップ付)」 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6014

      祝 蔦重:結婚、日本橋進出! 「大江戸問屋祭り」7/6()開催:鶴屋喜右衛門(演:風間俊介) https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6063

      日本橋「白木屋」と「名水白木屋の井戸」:白木屋彦太郎(演:堀内正美) https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6056

      池洲稲荷神社:鱗形屋孫兵衛(演:片岡愛之助)、7/22() 日本橋大伝馬町「池洲夏祭り」開催! https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6095

 

●参考資料・出典(ホームページ含む):

東京大学、江戸東京博物館、

歩いてわかる中央区ものしり百科、中央区、国立国会図書館、東京都立図書館、国立文化財機構、東京国立博物館、NHK、プレジデント、サライ、ステラNet、東京都公園協会、浜離宮恩賜庭園、東京都、郵政博物館、「十軒店跡」案内板、福徳神社、京都大学、二条城、メトロポリタン美術館、イチマス田源、蔦重通油町ギャラリー、十思スクエア蔦重ギャラリー、熈代勝覧、Central Tokyo for Tourism(東京中央区オフィシャル観光ガイド)

 

日本橋区史、石川雅望集(叢書江戸文庫28)(国書刊行会)、

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