「中央区とのご縁:べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜⑮」
~伝馬町牢屋敷:田沼意知(演:宮沢氷魚)、佐野政言(演:矢本悠馬)~
「中央区まちかど展示館 夏休みスタンプラリー&クイズ」開催中
第28話では、佐野政言による田沼意知の刃傷事件が発生し、意知は田沼意次に看取られながら亡くなりました。また、佐野は、伝馬町牢屋敷において切腹になりました。「小伝馬町牢屋敷展示館」をはじめとする「中央区まちかど展示館」において、「夏休みスタンプラリー&クイズ」開催中です。
“べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜” 第28話「佐野世直大明神」
7月27日(日)放映の第28話では、田沼意知(たぬまおきとも)(演:宮沢氷魚)が、江戸城内において佐野政言(さのまさこと)(演:矢本悠馬)に突然斬りつけられ、その数日後に亡くなりました。
佐野は、伝馬町牢屋敷に連行され、切腹になりました。佐野の切腹後、高騰していた米価が下がり始めたことから、佐野は「世直し大明神」「佐野大明神」として祀り上げられることになりました。
この事件は歌舞伎の題材となり、大坂・京都・江戸で上演されました。タイトル画像(錦絵)(出典:東京都立図書館)は、寛政2年(1790年)5月初演の市村座による「有職鎌倉山」を描いたものです。
画像は、意知殺傷事件を風刺した黄表紙、「黒白水鑑(こくびゃくみずかがみ)」(出典:国立国会図書館)です。絵の右下に記載されている通り、北尾政演(きたおまさのぶ)(山東京伝(さんとうきょうでん))(演:古川雄大)が挿絵を描きました。後日、この本は幕府によって発禁処分となり、北尾政演も罰せられました。
田沼意知(演:宮沢氷魚)、佐野政言(演:矢本悠馬)
田沼意知は、寛延2年(1749年)、田沼意次(演:渡辺謙)の長男として生まれました。意知は、天明3年(1783年)、若年寄に抜擢されましたが、まだ部屋住みの身分であり、家督を継いでいない者が若年寄として幕閣の一角を占めることは先例がありませんでした。この時、意次は65歳で老中、意知は35歳で若年寄、当時”田沼父子”といわれて幕政の実権を握り、飛ぶ鳥も落とす勢いでした。意次は自分の権勢を意知につなぐことを意図していました。
天明4年(1784年)3月24日は、田沼父子にとり運命の日となりました。午後1時頃、意知が将軍の警衛に当たる新番組の詰所前を通りかかったときに、旗本の佐野政言が意知に突然斬りかかりました。その際、佐野は、「覚えがあるであろう」と3度叫び、意知を後ろから斬りつけました。殿中なので、意知は脇差を抜かずに鞘で受け止めましたが、防ぎきれず手傷をおいました。ドラマでもこのシーンが忠実に再現されていましたね。佐野は、さらに追いかけ、桔梗の間に逃げた意知に深手を負わせました。これが致命傷になり、意知は2日後の3月26日に36歳でこの世を去りました。
佐野は捕らえられ、伝馬町牢屋敷の揚座敷(あがりざしき)に入れられました。評定所で佐野に切腹が申し渡され、4月3日に、揚座敷の前庭で北町奉行所同心高木伊助を介錯人として切腹が行われました。
切腹した佐野の遺骸は浅草の徳本寺(とくほんじ)に葬られましたが、墓所には参詣者が押し寄せました。高騰していた米価が、佐野切腹の翌日から下がり始めたため、佐野は「世直し大明神」「佐野大明神」として祀り上げられることになりました。
一方で、意知に対して世間は冷淡で、町人たちが意知の葬列に投石し、悪口を浴びせました。刃傷事件をきっかけに、意次に対する世間の反感、田沼政権への不満が噴出したのです。
佐野が意知の刃傷に及んだ理由には3つの説があると、いくつかの書籍に記述されています。私怨説と公憤説、および乱心説の3つです。
第1の私怨説は、意知に頼まれて佐野家の系図を貸したところ、何度催促しても返してくれなかったこと、何か役職に就けてくれるように意次の用人に頼み込み、620両もの大金をつぎ込んだのに騙されたこと、などいくつもの怨みが重なって刃傷に及んだ、というものです。
第2の公憤説は、田沼親子が権勢をふるい、いろいろと改革を企てたので人々の憎しみをうけ、その田沼親子を憎む人々は、父の意次は老齢だが、子の意知は若いので改革を続けるだろうから、意知を殺さなければならないと考え、佐野がそれを実行した、というものです。ドラマの中で、一橋治済(はるさだ)(演:生田斗真)は、この説を唱えていましたね。
第3の乱心説は、幕府評定所の判断で、評定所が佐野に申し渡した判決文に記されていますが、江戸城内で乱心したというものです。
書籍「田沼意次・意知父子を誰が消し去った? 海外文書で浮かび上がる人物」(清水書院)において、オランダ商館長ティチングが残した文書を引用しつつ、「陰謀説」が唱えられています。具体的には、徳川家基(演:奥智哉)の不審な事故死、意知殺害と、相次いだのは、田沼政権を潰して政権を自分のものにしようという、一橋治済の陰謀だった、というものです。「徳川家基の不審な事故死」と「オランダ商館長」については、以下のブログ(↓)をご覧ください。
https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5856
https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5861
ドラマの中で、今回も「丈右衛門(じょうえもん)だった男」(演:矢野聖人)が登場するなど、色々な伏線が描かれていますので、今後の展開が楽しみですね。
画像は、それから約4年後の天明8(1788)年に発行された、山東京伝による、黄表紙の「時代世話二挺鼓」(じだいせわにちょうつづみ)(出典:国立国会図書館)です。物語の内容は、平将門の乱を下敷きにしながら、平将門を田沼意知、乱を平定させた藤原秀郷を佐野政言になぞらえたものです。
伝馬町牢屋敷
伝馬町牢屋敷内の獄舎は、身分によって以下の通り区分されていました。
① 揚(あがり)座敷(旗本500石以下):4房
② 揚屋(幕府御家人(200石以下)、大名旗本の家臣、僧侶・神官):5房
③ 大牢(一般町民):2房
④ 百姓牢:1房
⑤ 女牢:1房
⑥ 無宿房:2房
ちなみに、500石以上の旗本は、入牢させず、他家への「預(あずけ)」とされました。
佐野は500石の旗本でしたので、牢屋の前まで駕籠で運ばれ、揚座敷に入獄されたと考えられます。
武士の死罪には名誉ある切腹が科せられ、実際に腹を切っていました。しかしながら、時代がくだってくると(蔦重の時代には)、実際に腹を切らず、扇子や木刀を小刀に見立てて、罪人がそれに手を伸ばしたとき、介錯人が首を打ち落とすようになりました。ドラマでも、佐野の前に、小さい木刀が置かれていましたね。
伝馬町牢屋敷は、現在の地下鉄日比谷線/小伝馬町駅の真上にある、十思公園、十思スクエア、大安楽寺、身延別院などを含む地域に置かれていました。十思スクエア別館1階には「小伝馬町牢屋敷展示館」があり、牢屋敷の模型が展示されています。模型をみると、他の牢屋は板張りですが、「揚座敷」は畳敷きになっており、精巧に再現されていることがよく分かります。伝馬町牢屋敷の模型を見学したら、その奥の扉から外に出ると、江戸時代に作られた上水井戸と上水木樋(じょうすいもくひ)を見ることができます。
「小伝馬町牢屋敷展示館」の詳細やアクセスは、以下のホームページ(↓)をご覧ください。
「中央区まちかど展示館 夏休みスタンプラリー&クイズ」開催中
7月1日(火)~8月29日(金)の期間、小伝馬町牢屋敷展示館を含む「中央区まちかど展示館」において、「夏休みスタンプラリー&クイズ」開催中です。
展示館に設置されているスタンプ4個以上とクイズに5問以上正解した方の中から、抽選でまちかど展示館の素敵な景品が当たります!
詳細は、以下のホームページ(↓)をご覧ください。
https://www.chuoku-machikadotenjikan.jp/stamprally_summer2025.html
【過去ブログ、参考資料・出典】
●過去ブログ:
① 伝馬町牢屋敷:平賀源内 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5849
② 浜離宮恩賜庭園:徳川将軍家の鷹狩場 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5856
③ 長崎屋、石町時の鐘:平賀源内 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5861
④ 日本橋 拾軒店:瀬川「青楼美人合姿鏡」https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5907
⑤ 日本橋瀬戸物町(福徳神社):鳥山検校 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5920
⑥ 狩野派:鳥山石燕、田沼意次、松平定信 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5987
⑦ 「耕書堂」(日本橋通油町):蔦屋重三郎 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5980
⑧ 熈代勝覧(きだいしょうらん):須原屋市兵衛(演:里見浩太朗) https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5996
⑨ 「べらぼうフェスティバル in 日本橋」(7/4~7/6)と「べらぼう 蔦屋重三郎 ゆかりの地めぐり(マップ付)」 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6014
⑩ 祝 蔦重:結婚、日本橋進出! 「大江戸問屋祭り」7/6(日)開催:鶴屋喜右衛門(演:風間俊介) https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6063
⑪ 日本橋「白木屋」と「名水白木屋の井戸」:白木屋彦太郎(演:堀内正美) https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6056
⑫ 池洲稲荷神社:鱗形屋孫兵衛(演:片岡愛之助)、7/22(火) 日本橋大伝馬町「池洲夏祭り」開催! https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6095
⑬ 小伝馬町・大伝馬町:宿屋飯盛(石川雅望)(演:「ピース」又吉直樹) https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6102
⑭ 末廣神社「元葭原夕暮れ参り」:「吉原細見」のルーツは「元吉原(元葭原)」にあります https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6143
●参考資料・出典(ホームページ含む):
歩いてわかる中央区ものしり百科、中央区、国立国会図書館、東京都立図書館、国立文化財機構、東京国立博物館、NHK、プレジデント、サライ、ステラNet、東京都公園協会、浜離宮恩賜庭園、東京都、郵政博物館、「十軒店跡」案内板、福徳神社、京都大学、二条城、メトロポリタン美術館、イチマス田源、蔦重通油町ギャラリー、十思スクエア蔦重ギャラリー、熈代勝覧、Central Tokyo for Tourism(東京中央区オフィシャル観光ガイド)、東京大学、江戸東京博物館、中央区沿革図集
東京都中央区 伝馬町牢屋敷跡遺跡-日本橋小伝馬町5番における十思スクエア別館建設に伴う緊急発掘調査報告書-(中央区教育委員会)、物語大江戸牢屋敷(文芸春秋)、田沼意次-「商業革命」と江戸城政治家(山川出版社)、田沼意次・意知父子を誰が消し去った?-海外文書で浮かび上がる人物(清水書院)、田沼意次の時代(岩波書店)、失脚-徳川幕閣盛衰記-5 改新派・田沼意次の深謀(祥伝社)、田沼意次 上・中・下(毎日新聞社)、田沼意次 愛蔵版(毎日新聞社)、田沼意次その虚実(新・人と歴史拡大版 35)(清水書院)、蔦屋重三郎と田沼意次と松平定信-江戸の改革者(歴史春秋出版)、田沼意次-御不審を蒙ること、身に覚えなし(ミネルヴァ書房)、
本の江戸文化講義-蔦屋重三郎と本屋の時代-(KADOKAWA)、蔦屋重三郎と粋な男たち!-時代を生き抜く成功方法-(内外出版社)、蔦屋重三郎と田沼時代の謎(PHP研究所)、蔦屋重三郎と吉原-蔦重と不屈の男たち、そして吉原遊郭の真実-(朝日新聞出版)、蔦屋重三郎と江戸文化を創った13人-歌麿にも写楽にも仕掛け人がいた!-(PHP研究所)、蔦屋重三郎の時代-狂歌・戯作・浮世絵の12人(KADOKAWA)、これ一冊でわかる!蔦屋重三郎と江戸文化(Gakken)、江戸の仕掛人 蔦屋重三郎(ウェッジ)、蔦屋重三郎(平凡社)、蔦屋重三郎 新版(平凡社)、蔦屋重三郎 江戸を編集した男(文藝春秋)、べらぼうに面白い蔦屋重三郎(興陽館)、蔦屋重三郎-江戸の反骨メディア王-(新潮社)、蔦屋重三郎-江戸芸術の演出者-(日本経済新聞社)、蔦屋重三郎と浮世絵-「歌麿美人」の謎を解く-(NHK出版)、蔦屋重三郎と江戸のアートがわかる本(河出書房新社)、蔦屋重三郎の仕事(平凡社)、Art of 蔦重-蔦屋重三郎 仕事の軌跡-(笠間書院)、蔦屋重三郎と江戸メディア史(星海社)、東京江戸地図本-TOKYOで「華のお江戸」を巡る-(ユニプラン)、吉原噺-蔦屋重三郎が生きた世界-(徳間書店)、居酒屋蔦重(オレンジページ)、もっと知りたい蔦屋重三郎-錦絵黄金時代の立役者-(東京美術)、江戸文化の仕掛け人 蔦屋重三郎と若き芸術家たち(玄光社)、すぐ読める!蔦屋重三郎と江戸の黄表紙(時事通信出版局)、江戸を照らせ-蔦屋重三郎の挑戦-(小峰書店)、蔦屋重三郎-江戸の出版プロデューサー-(講談社)、蔦屋重三郎-歌麿、写楽、北斎を仕掛けた江戸のカリスマ出版人-(集英社)、狩野派絵画史(吉川弘文館)、江戸名作画帖全集4探幽・守景・一蝶-狩野派-(駸々堂出版)、狩野派決定版(別冊太陽 日本のこころ131)(平凡社)、狩野派の絵画-特別展(東京国立博物館)、狩野派の絵画-特別展図録(東京国立博物館)、もっと知りたい狩野派-探幽と江戸狩野派(アート・ビギナーズ・コレクション)(東京美術)、浮世絵芸術(国際浮世絵学会)、日本妖怪考(森話社)、広益体 妖怪普及史(勉誠社)、今昔妖怪大鑑(パイインターナショナル)、妖怪あつめ(角川書店)、続・妖怪図鑑(図書刊行会)、江戸の本屋さん(平凡社)、江戸の本屋(上、下)(中公新書)、江戸奉公人の心得帖-呉服商白木屋の日常(新潮社)、社史で見る日本経済史 第109巻 復刻 白木屋の歴史/白木屋300年の歴史(ゆまに書房)、白木屋三百年史(白木屋)、白木屋300年の歴史(白木屋)、日本橋区史、石川雅望集(叢書江戸文庫28)(国書刊行会)、日本橋区史 第一冊(飯塚書房)、日本橋区史 第二冊(飯塚書房)、日本橋区史 第三冊(飯塚書房)、日本橋区史 第四冊(飯塚書房)
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