「中央区とのご縁:べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜⑰」
~高尾稲荷神社(日本橋箱崎町):遊女の一生、誰袖(演:福原遥)~
花魁「誰袖(たがそで)」を演じた女優・福原遥さんのクランクアップが報道されました。遊女の一生、そして、全国でも珍しい、遊女(実物の頭蓋骨)をお祀りしている神社「高尾稲荷神社」をご紹介させて頂きます。
“べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜” 第29話「江戸生蔦屋仇討(えどうまれつたやのあだうち)」
8月3日(日)放映の第29話では、誰袖が、愛する田沼意知(たぬまおきとも)(演:宮沢氷魚)を佐野政言(さのまさこと)(演:矢本悠馬)に殺され、佐野を呪い、自分も死のうとしていました。蔦重が黄表紙「江戸生艶気樺焼(えどうまれうわきのかばやき)」を作り、誰袖に読み聞かせたところ、誰袖は笑顔を取り戻しました。
タイトル画像は、蔦重が出版した、北尾政演(きたおまさのぶ)(演:古川雄大)画による「吉原傾城新美人合自筆鏡(よしわらけいせいしんびじんあわせじひつかがみ)」(出典:東北大学)で、左から2番目に描かれているのが誰袖です。ドラマで描かれている通り、史実でも、土山宗次郎(つちやまそうじろう)(演:栁俊太郎)が、当時としては破格の1200両で誰袖を身請けしました。土山宗次郎は、田沼意次(たぬまおきつぐ)(演:渡辺謙)が失脚すると、罪に問われ命を落としました。
画像は、江戸生艶気樺焼(出典:東京都立図書館)で、田沼意知の死の翌年、天明5年(1785年)に発刊されました。山東京伝(さんとうきょうでん)著、北尾政演画による、蔦重出版の黄表紙です。山東京伝と北尾政演は同一人物で、戯作者としては「山東京伝」、浮世絵師としては「北尾政演」と号していました。江戸生艶気樺焼は、京伝の黄表紙の代表作の一つで、挿絵も京伝自身が描いています。
第29話の約10分間の劇中劇、面白かったですね。古川雄大さんが演じる、団子鼻の主人公「仇気屋艶二郎(あだきやえんじろう)」をはじめ、物語が忠実に再現されています。NHKのホームページで「江戸生艶気樺焼」の全ページが紹介されています(↓)。
https://www.nhk.jp/p/berabou/ts/42QY57MX24/blog/bl/pyRxwlZnDK/bp/pYmbWBkxgq/
遊女の一生:デビュー前から引退まで
遊女の一生は、おおよそ以下の通りでした。
①身売り⇒②禿(かむろ)⇒③振袖新造(ふりそでしんぞう)⇒④遊女⇒⑤身請け、年季明け、死亡
①身売り(5~10歳頃):女衒(ぜげん)(人身売買ブローカー)が地方の農村などを回って娘を買い、吉原に売られてきます。この時、妓楼(ぎろう)に前借りという名目で親が金を受け取り、遊女が働いて妓楼に返す仕組みでした。
②禿:上級遊女の下につき、雑用をしつつ吉原のしきたりを学び、さまざまな稽古事を習います。
③振袖新造(14歳頃):まだ客をとらない遊女の一歩手前の状態で、花魁の用事をしたり、道中の供をしたりします。
④遊女(17歳頃):一人前として客の相手をします。高級遊女は「花魁」と呼ばれました。
⑤身請け、年季明け、死亡:「身請け」とは、客が遊女の借金を含む身代金を妓楼に支払い、遊女の身柄を貰い受けることです。「年季明け」は、借金も返済し、奉公する約束の期限・年季が明けることで、27歳くらいで年季が明けます。裕福な商人や武士の妾に迎えられる者もいましたが、遊里から離れられない元吉原遊女たちも数多くいました。また、遊女は若い頃から体への負担が大きく、病気などで短命な者も多かったと言われています。
このほか、ドラマの中で描かれていた、小田新之助(演:井之脇海)とふく(花魁・うつせみ)(演:小野花梨)のように、年季明けの前に吉原から脱走しようと「足抜け」するケースもありましたが、徹底的に探索され、成功率はほとんどゼロでした。
遊女にとっては、「身請け」が一番幸せな道のように思えますが、誰袖を身請けした土山宗次郎は罪に問われ死亡していますし、次にご紹介させて頂きます「2代目高尾太夫」のように、身請けした大名から惨殺された遊女もいました。画像は、この惨殺シーンを描いた、刀を振りかざす伊達綱宗(だてつなむね)と高尾太夫です(「三代目岩井粂三郎の高尾、五代目坂東彦三郎のよりかね」、出典:東京富士美術館 https://www.fujibi.or.jp/collection/artwork/09036/)。
高尾稲荷神社(日本橋箱崎町)
歌舞伎の世界と同様に、吉原遊女にも襲名の慣わしがあり、妓楼・三浦屋では高尾太夫の源氏名が襲名されました。中でも、2代目高尾太夫は「仙台高尾」「万治高尾」ともいわれ、容姿端麗、和歌俳諧に長じ、書は抜群、諸芸にも通じていたと言われており、歌舞伎や長唄の題材になるほど数々の逸話が残されています。2代目高尾太夫が亡くなったのは万治2年(1659年)で、蔦重が生まれたのは、その約100年後の寛延3年(1750年)ですので、残念ながら、2代目高尾太夫はドラマ「べらぼう」には登場しません。
仙台藩の3代目藩主伊達綱宗(伊達政宗の孫)は、2代目高尾太夫を寵愛し、彼女の体重と同じ重さに相当する大金三千両を積んで彼女を身請けしました。「伊達騒動」に、高尾太夫の体重は20貫(75㎏)であったとの記録がありますが、これは、衣装や装飾がかなり重かった(30㎏以上)ためです。
高尾太夫には将来を誓い合った男性がおり、操を立てて綱宗の意には従わなかったため、綱宗の怒りを買い大川(隅田川)の三又(現在の中央区日本橋中洲付近)の船中にて吊るし斬りにされ、川に捨てられました。遺体は北新堀河岸(現在の中央区の豊海橋付近)に流れ着いたと言われています。
高尾稲荷神社の境内にある由来書きにも、そのように記されており、社には全国でも珍しく実物の頭蓋骨がご神体として安置されています。また、画像の通り、境内には歌川豊国による「古今名婦伝 万治高尾(ここんめいふでん まんじたかお)」の錦絵が飾られています。
吊るし斬りにされたストーリーはほとんどがフィクションであり、実際には病死したとの説もありますが、地元民の「浜ちゃん」としては、このストーリーを信じてお参りしております。
<アクセス>
水天宮前駅出口3より徒歩7分、茅場町駅出口4aより徒歩8分
【過去ブログ、参考資料・出典】
●過去ブログ:
① 伝馬町牢屋敷:平賀源内 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5849
② 浜離宮恩賜庭園:徳川将軍家の鷹狩場 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5856
③ 長崎屋、石町時の鐘:平賀源内 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5861
④ 日本橋 拾軒店:瀬川「青楼美人合姿鏡」https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5907
⑤ 日本橋瀬戸物町(福徳神社):鳥山検校 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5920
⑥ 狩野派:鳥山石燕、田沼意次、松平定信 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5987
⑦ 「耕書堂」(日本橋通油町):蔦屋重三郎 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5980
⑧ 熈代勝覧(きだいしょうらん):須原屋市兵衛(演:里見浩太朗) https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5996
⑨ 「べらぼうフェスティバル in 日本橋」(7/4~7/6)と「べらぼう 蔦屋重三郎 ゆかりの地めぐり(マップ付)」 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6014
⑩ 祝 蔦重:結婚、日本橋進出! 「大江戸問屋祭り」7/6(日)開催:鶴屋喜右衛門(演:風間俊介) https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6063
⑪ 日本橋「白木屋」と「名水白木屋の井戸」:白木屋彦太郎(演:堀内正美) https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6056
⑫ 池洲稲荷神社:鱗形屋孫兵衛(演:片岡愛之助)、7/22(火) 日本橋大伝馬町「池洲夏祭り」開催! https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6095
⑬ 小伝馬町・大伝馬町:宿屋飯盛(石川雅望)(演:「ピース」又吉直樹) https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6102
⑭ 末廣神社「元葭原夕暮れ参り」:「吉原細見」のルーツは「元吉原(元葭原)」にあります https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6143
⑮ 伝馬町牢屋敷:田沼意知(演:宮沢氷魚)、佐野政言(演:矢本悠馬) 「中央区まちかど展示館 夏休みスタンプラリー&クイズ」開催中 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6149
⑯ 8月30日(土)「歴史を旅するプロジェクションマッピング Vol.2」開催(中央区立日本橋中学校) https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6194
●参考資料・出典(ホームページ含む):
高尾稲荷神社、東北大学、東京富士美術館、
歩いてわかる中央区ものしり百科、中央区、国立国会図書館、東京都立図書館、国立文化財機構、東京国立博物館、NHK、プレジデント、サライ、ステラNet、東京都公園協会、浜離宮恩賜庭園、東京都、郵政博物館、「十軒店跡」案内板、福徳神社、京都大学、二条城、メトロポリタン美術館、イチマス田源、蔦重通油町ギャラリー、十思スクエア蔦重ギャラリー、熈代勝覧、Central Tokyo for Tourism(東京中央区オフィシャル観光ガイド)、東京大学、江戸東京博物館、中央区沿革図集
ビジュアルでよくわかる!図解吉原遊郭入門-蔦重も学んだ!遊女の暮らし・しきたり・タブー…徹底解説(宝島社)、吉原艶史(新人物往来社)、図説江戸吉原の本-遊里を知れば、江戸が見えてくる!(洋泉社)、図説吉原遊郭のすべて-幕府に公認されていた郭の歴史、遊女の実態(双葉社)、
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