浜ちゃん

「中央区とのご縁:べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜㉓」
~鉄砲洲(鐵砲洲稲荷神社):平秩東作(演:木村了)~

平秩東作は、ドラマの中で、事業家、狂歌師、田沼政権に近い存在、などとしてマルチな活躍をした人物として描かれています。東作は、蝦夷地と関係の深かった、中央区の「鉄砲洲」に住んでいました。

“べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜” :第5話、第15話、第20話、第29話、第34話、第36話

平秩東作(へづつとうさく)(演:木村了)は、これまで何度も、ドラマのキーパーソンとして登場しています。921日(日)放映の第36話で、ついに、息を引き取りました。東作は、亡くなった後にブログでご紹介させて頂こうと思っていましたので、今回、そのタイミングになりました。以下、ドラマのシーンを懐かしく思い出しながら、ブログをお読み頂ければ幸いです。

史実でも、東作は、「蝦夷地」というキーワードで、田沼意次(たぬまおきつぐ)(演:渡辺謙)と深くつながっていた人物でした。また、須原屋市兵衛(すはらやいちべえ)(演:里見浩太朗)も、中央区の「鉄砲洲」を通じて、蝦夷地とつながりがありました。

5話:蔦(つた)に唐丸因果の蔓(つる)

22日(日)放映の第5話では、東作が、平賀源内(ひらがげんない)(演:安田顕)と一緒に、秩父中津川(現在の埼玉県秩父市)鉱山開発を手掛けるシーンがありました。東作は源内のパートナーの、「事業家」として描かれていました。

15話:死を呼ぶ手袋

413日(日)放映の第15話では、東作が源内に、蝦夷で採掘された金の袋を渡し、源内がそれを田沼意次に渡すシーンがありました。源内は意次に、幕府の財政再建のために、蝦夷地を幕府の直轄領とするアイデアを伝えました。

20話:寝惚(ぼ)けて候

525日(日)放映の第20話では、蔦重が、大田南畝(おおたなんぽ)(演:桐谷健太)の招きで狂歌の会にやってくると、東作がいました。東作は蔦重に、狂歌の会の資金提供者であり、意次側近の勘定組頭・土山宗次郎(つちやまそうじろう)(演:栁俊太郎)を大田南畝に引き合わせたのは自分だ、と伝えていました。ここでは、東作は「狂歌師」として描かれていました。後に、土山宗次郎は、花魁「誰袖(たがそで)」(演:福原遥)を身請けしましたね。

29話:江戸生蔦屋仇討(えどうまれつたやのあだうち)

83日(日)放映の第29話では、東作は、松前藩の抜け荷の証拠として、松前藩の表と裏の勘定を意次に渡し、意次は一気に蝦夷の上知(あげち)(=蝦夷地を幕府の直轄領とすること)を進めることになりました。ここでは、東作は「田沼政権に近い存在」として描かれていました。

34話:ありがた山とかたじけ茄子(なすび)

97日(日)放映の第34話では、老中首座に就任した松平定信(まつだいらさだのぶ)(演:井上祐貴)が、田沼意次一派の粛清を始めました。田沼派の勘定組頭・土山宗次郎は、東作と逐電(逃亡)しましたが、捕らえられ、公金横領の罪で斬首となりました。

36話:「鸚鵡のけりは鴨」

921日(日)放映の第36話では、ついに、東作は、波乱万丈の人生を終えて、息を引き取りました。

平秩東作と鉄砲洲・蝦夷地、須原屋市兵衛も

平秩東作と鉄砲洲・蝦夷地、須原屋市兵衛も 「中央区とのご縁:べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜㉓」
~鉄砲洲(鐵砲洲稲荷神社):平秩東作(演:木村了)~

平秩東作は、ドラマで描かれている通り、事業家、狂歌師、戯作者、田沼政権に近い存在、などとしてマルチな活躍をした人物です。江戸時代、京橋川が隅田川に合流する河口から南の方への細長い州が「鐵砲洲」と呼ばれており、東作は蝦夷地との繫がりを求めて、「鉄砲洲船松町(てっぽうずふなまつちょう、現在の中央区)」に転居しました。

安永4年(1775年)、東作は、内藤新宿(現在の新宿区)で営んでいた煙草屋を長男八右衛門に譲り、本所相生町(現在の墨田区)に転居し材木問屋を開きました。平賀源内が秩父中津川鉱山開発に着手したのが安永2年で、木炭の江戸積み出しを計画し、製炭開始が安永4年夏でしたので、東作の店では秩父産木炭や材木をさばく役割も果たしていたと言われています。

安永7年(1778年)、東作53歳のころ、材木問屋を鉄砲洲船松町(現在の中央区)に移しました。鉄砲洲は、「まき問屋すみ問屋多し」(続江戸砂子)といわれ、商売仇の多い土地でしたが、東作の転居にはある理由がありました。

以下は、鉄砲洲で商売をしていた人物で、共通項がありました。

①栖原屋(すはらや)角兵衛(鉄砲洲本湊町):蝦夷地松前で物産交易商を営む。須原屋市兵衛(演:里見浩太朗)の本家である須原屋茂兵衛(すはらやもへえ)は栖原屋の出身です。須原屋市兵衛が早くから海外に目を向け、そうした出版が多いのは、栖原屋の影響を受けていたためと言われています。

②飛騨屋久兵衛(鉄砲洲明石町):松前で、材木請負を幅広く営む。「赤蝦夷の島方にてヲロシャ(ロシア)と交易した抜け荷の輸送を引き受けた」との記録が残っています。

③新宮屋久右衛門(鉄砲洲船松町):蝦夷地交易商。元松前藩勘定奉行湊源左衛門と昵懇。

④堺屋市左衛門(鉄砲洲):蝦夷への運送も頻繁に手掛ける船屋。

列挙したように、蝦夷地そしてロシアへの窓口が「鉄砲洲」だったのです。田沼政権庇護のもと、東作が蝦夷地に夢をもとめ、積極的に動きはじめるのは、鉄砲洲に引っ越した安永7年(1778年)ごろからと推察されます。

東作は、蝦夷・松前江差(現在の北海道松前郡)で天明3年(1783年)から一冬(約半年間)を過ごし、そのときの経験をもとに、紀行文「東遊記(とうゆうき)」を執筆しました。東作が帰郷した天明4年(1784年)5月には、土山宗次郎が、幕閣の諮問に答えて蝦夷地に関する意見書を奉っており、その中には東作のことも記されています。東作の手記等を材料として記されたとされる「絵馬屋額輔の東作伝」の中に、「土山宗次郎は東作に対して、蝦夷に行き、蝦夷地の抜け荷のことを調べるように申し伝えた」と記されており、東作の蝦夷入りは、土山宗次郎と熟議の上だったことが分かります。ドラマ第29話で、土山宗次郎同席のもとで、東作が意次に対して、松前藩の抜け荷の証拠として、松前藩の表と裏の勘定を渡すシーンがありましたが、この史実とも一致しています。

幕府の蝦夷地開発が順調に進んでいたならば、東作が北海に活躍する日が来たのかもしれませんが、残念ながら、東作の蝦夷地に求めた夢は実現しませんでした。東作帰郷の2年後の天明6年(1786年)9月に徳川家治(とくがわいえはる)(演:眞島秀和)が死去、それと前後して老中田沼意次が失脚し、蝦夷地踏査は頓挫してしまいました。その3年後、寛政元年(1789年)3月、東作は64歳で永眠しました。

629日(日)放映の第25話「灰の雨降る日本橋」では、須原屋市兵衛が田沼意知(たぬまおきとも)(演:宮沢氷魚)に、蝦夷地の「抜け荷の絵図」を渡し、蔦重が日本橋に店を持つことを助けて欲しい、とお願いするシーンがありました。須原屋市兵衛は、抜け荷の地図を、鉄砲洲にあった「栖原屋」ルートで入手したのかもしれません。森下佳子さんは、蝦夷地⇒鉄砲洲⇒須原屋市兵衛のルートをヒントに、ドラマの中でこのシーンを描いたのでしょう。

鐵砲洲稲荷神社

鐵砲洲稲荷神社 「中央区とのご縁:べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜㉓」
~鉄砲洲(鐵砲洲稲荷神社):平秩東作(演:木村了)~

鐵砲洲稲荷神社(タイトル画像)は、歌川広重の名所江戸百景「鐵砲洲稲荷橋湊神社」にも描かれている歴史ある神社で、平秩東作が住んでいた「鉄砲洲船松町」のすぐそばにありました。明治元年(1868年)、築地外国人居留地の開設にあたり鐵砲洲が御用地となったことから、替地として現在の社地へ遷座し、今日に至っています。

毎年5月2~5日には、「鐵砲洲稲荷神社例大祭」が開催され、中央区内の小学生による「新富座こども歌舞伎」などが披露されます。イベント詳細、並びに、神社へのアクセスは、以下のブログ(↓)をご覧ください。

https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5887

また、この神社の右奥には、中央区内に現存する唯一の富士塚があります(画像)。高さ約5メートルの富士塚は、富士山の五合目以上の姿を模したもので、山腹全体は富士の岩肌を表現するように黒ぼく石(富士山の溶岩)で覆われています。

【過去ブログ、参考資料・出典】

●過去ブログ:

      伝馬町牢屋敷:平賀源内 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5849

      浜離宮恩賜庭園:徳川将軍家の鷹狩場 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5856

      長崎屋、石町時の鐘:平賀源内 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5861

      日本橋 拾軒店:瀬川「青楼美人合姿鏡」https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5907

      日本橋瀬戸物町(福徳神社):鳥山検校 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5920

      狩野派:鳥山石燕、田沼意次、松平定信 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5987

      「耕書堂」(日本橋通油町):蔦屋重三郎 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5980

      熈代勝覧(きだいしょうらん):須原屋市兵衛(演:里見浩太朗) https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5996

      「べらぼうフェスティバル in 日本橋」(7/47/6)と「べらぼう 蔦屋重三郎 ゆかりの地めぐり(マップ付)」 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6014

      祝 蔦重:結婚、日本橋進出! 「大江戸問屋祭り」7/6()開催:鶴屋喜右衛門(演:風間俊介) https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6063

      日本橋「白木屋」と「名水白木屋の井戸」:白木屋彦太郎(演:堀内正美) https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6056

      池洲稲荷神社:鱗形屋孫兵衛(演:片岡愛之助)、7/22() 日本橋大伝馬町「池洲夏祭り」開催! https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6095

      小伝馬町・大伝馬町:宿屋飯盛(石川雅望)(演:「ピース」又吉直樹) https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6102

      末廣神社「元葭原夕暮れ参り」:「吉原細見」のルーツは「元吉原(元葭原)」にあります https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6143

      伝馬町牢屋敷:田沼意知(演:宮沢氷魚)、佐野政言(演:矢本悠馬) 「中央区まちかど展示館 夏休みスタンプラリー&クイズ」開催中 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6149

      830日(土)「歴史を旅するプロジェクションマッピング Vol.2」開催(中央区立日本橋中学校) https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6194

      高尾稲荷神社(日本橋箱崎町):遊女の一生、誰袖(演:福原遥) https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6197

      薬研堀(薬研堀不動院):礒田湖龍斎(いそだこりゅうさい)(演:鉄拳) https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6179

      椙森神社:北尾政美(きたおまさよし)(演:高島豪志) 宝くじファン必見、92日(くじの日)に椙森神社にて富塚祈願祭が開催されます! https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6207

      101日(水)「トークショーin中央区」開催:蔦重の母「つよ」(演:高岡早紀) 申込締切97日(日)(応募多数の場合は抽選) https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6219

21      常盤橋門:北町奉行「曲淵景漸」(演:平田広明)<第33話「打壊演太女功徳」は「太夫(太女)が演じるエンタメ(演太女)」の回?:富本斎宮太夫(演:新浜レオン)> https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6274

22      【~蔦屋重三郎と絵師たち~、「第18 EDO ART EXPO(江戸アートエキスポ)」開催(926日(金)~1014日(火))】 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=6292

 

●参考資料・出典(ホームページ含む):

鉄砲洲稲荷神社、

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森銑三著作集 第1巻(中央公論社)、平秩東作と周辺(著:井上隆明)、「平秩東作の戯作的歳月」書評(著:棚橋正博)、

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